偽りの「第三者委員会」で原発事業の問題を隠蔽した弁護士と東芝執行部

東芝不正会計問題を徹底追及してきた日経ビジネスオンライン(NBO)が、11月12日のスクープ 東芝、米原発赤字も隠蔽 内部資料で判明した米ウエスチングハウスの巨額減損で、東芝が米国の原発子会社ウエスチングハウスでの巨額の減損を隠ぺいしていた事実を報じ、重要事実をいまだに隠ぺいしようとする東芝の姿勢に厳しい批判が向けられ、東証が、開示基準違反を指摘するに至ったのに続いて、NBOは、昨日午後、スクープ 東芝 減損隠し 第三者委と謀議 室町社長にもメールと題する決定的な記事を配信した。

今回のNBOの記事には、第三者委員会発足前に、当時の田中久雄社長、室町正志会長(現社長)、法務部長(現執行役員)等の東芝執行部が、原発子会社の減損問題を、委員会への調査委嘱事項から外すことを画策するメールが掲載されている。その東芝執行部の意向は、東芝の顧問法律事務所の森・濱田松本法律事務所から、第三者委員会の委員の松井秀樹弁護士に伝えられ、結果的に、第三者委員会報告書では、「東芝と合意した委嘱事項以外の事項については(中略)いかなる調査も確認も行っていない」とされて、原発事業をめぐる問題は、見事に調査対象から外されたのである。もちろん、そのようなことが、委員長である上田廣一弁護士(元東京高検検事長)の了解なく行われることは考えられない。

記事の内容が事実だとすると、東芝の会計不正への対応で中心とされてきた「第三者委員会スキーム」は、世の中を欺くための手段として使われた「壮大な茶番」だったことになる。

私は、今年7月の東芝第三者委員会報告書公表以降、当ブログでも何度か問題を指摘してきたほか、「東芝不適切会計」第三者委員会報告書で深まる混迷(プレジデントオンライン)、【「問題の核心」を見事に外した第三者委員会報告書】(岩波・世界9月号)等で、東芝の第三者委員会報告書を徹底批判してきた。

私が指摘してきたのは、今回の東芝の第三者委員会の「枠組み」に対する根本的な疑問であった。

①会計不正の問題なのに、不正の認識の根拠となる監査法人による会計監査の問題が委嘱の対象外とされていること、②調査の対象が、「損失先送り」という損益計算書(P/L)に関するものに限られ、原発子会社の巨額の「のれん代」の償却の要否等の会社の実質的な財務基盤に関わる貸借対照表(B/S)項目は対象から除外されていること、などからすると、第三者委員会の調査は、意図的に問題の本質から目を背けようとしているとしか思えなかった。

また、室町氏については、会計不正が行われた期間に取締役会長の地位にあったにも関わらず、社内に設置された特別調査委員会の委員長を務めただけでなく、第三者委員会報告書でも「関与がなかった」とされて何ら責任を問われず、東芝の再生を担う社長に就任したことに加え、その後の同氏の言動にも多大な疑問を感じていた(【東芝決算発表再延期、記者会見での室町社長の「責任」発言に唖然】。その後、室町氏の責任に全く言及しない責任調査委員会報告書が公表され、さらに、東芝が米国の原発子会社の巨額の減損を隠ぺいしていたことが明らかになったことで、室町氏に東芝の再生、信頼回復を委ねることは不可能だとの確信を深めた(原発子会社巨額減損「隠ぺい」 東芝再生は「風前の灯」)。

今回のNBOの記事によって、室町現社長を含む現執行部の正当性の、最大の、いや唯一の根拠とされてきた「第三者委員会報告書」が、全くの「見せかけだけのもの」であったことが明らかになったのである。記事を前提にすれば、室町社長を含む東芝の現執行部の責任は重大であり、その職にとどまるべきでないことは誰の目にも明らかであろう。また、「偽りの第三者委員会」によって世間の目をごまかすことに加担した委員たる弁護士にも重大な責任があると言えよう。

現在のところ、不祥事を起こした企業にとって第三者委員会を設置するか否か、それをどのように運用するかについて法令上の定めがあるわけではないが、2010年に日弁連が公表した「第三者委員会ガイドライン」は、企業等の不祥事において、第三者委員会を設置した場合における重要なルールとして機能している。

その「第三者委員会ガイドライン」では、「第三者委員会は、依頼の形式にかかわらず、企業等から独立した立場で、企業等のステークホルダーのために、中立・公正で客観的な調査を行う。」とされている。依頼した企業から独立した立場で活動する委員会であり、調査範囲や調査結果は、依頼者たる企業側がコントロールできるものではないことが前提とされている。

不祥事を起こした企業においては、その当事者たる企業経営者の利益と、公益的観点、ステークホルダーの利益は、往々にして対立する。「第三者委員会ガイドライン」を前提とすれば、企業の経営者に選任され、報酬の支払を受ける立場にありながら、企業から独立した立場で公正な調査を行う使命を担う第三者委員会の委員は、会社から報酬を受け、独立して会計監査を行う公認会計士・監査法人と類似する。

企業関係の業務を手掛ける弁護士であれば、企業の執行部の意向に沿う方向で動くことが、当該企業と関係を維持し、その後の自らの利益にもつながる場合が多いが、そのような利害から離れ、公正・中立な立場で事実調査・原因究明・再発防止策の検討を行うのが第三者委員会の役割である。

重大な不祥事を起こした企業にとって、内部者による調査委員会では、調査への信頼性が確保できない場合、第三者委員会の設置が有力な手段となる。しかし、それは、調査の範囲や調査結果等について委員会の判断を尊重することが大前提なのであり、第三者委員会を設置する経営者は、不利な事実が明らかになるリスクを覚悟した上で設置の判断を行うことになる。

そのため、不祥事企業が、わざわざ「日弁連第三者委員会ガイドラインに準拠する第三者委員会ではない」と断ったうえで外部者による調査委員会を設置する例もあるくらいだ。

今回の東芝の第三者委員会は、「日弁連第三者委員会ガイドラインに準拠する委員会である」と明確に説明した上で設置されたものであった(2015年5月8日付「第三者委員会設置のお知らせ」)。そして、対外的にガイドラインを振りかざして、報告書の内容に関する責任が東芝本体に及ばないようにするという方向で「第三者委員会の独立性」を最大限に活用した。ところが、実際には、第三者委員会の委員たる弁護士が、調査範囲について、経営者側の意向を受け重大な問題を調査対象から外す方向で積極的に動いたというのである。それは、「第三者委員会」の名称を使った「虚偽表示」のようなものだ。

このようなやり方は、日本において、第三者委員会に関する、確立されたルールを蔑ろにするもので、企業等の不祥事対応において重要な機能を果たすべき第三者委員会への信頼性を著しく損なうものである。

私自身、検事を退職し、弁護士登録して以降、企業等の第三者委員会に関して様々な経験をしてきた。多くの案件では、企業側との信頼関係のもとに不祥事の本質に迫ることができ、信頼回復に向けての役割を果たしてきた。

しかし、2011年の、原発事故後の玄海原発の再稼働をめぐる「九州電力やらせメール問題」の第三者委員会委員長を務めた際には、委嘱者の九州電力の経営トップと激しく対立することになった。調査の過程で、九電社員が組織的に「やらせメール」の送信を行った発端が、当時の佐賀県知事の九電幹部への発言だったことが判明した。その事実は、「やらせメール」の重要な動機であるとともに、その背景にある九電と原発立地自治体の首長との不透明な関係が問題の本質であるとの認識から、その点を事実解明・原因究明の対象としたのに対して、当時の九電経営陣は、第三者委員会に対して佐賀県知事発言を調査の対象外とすることを求め、九電に提出した第三者委員会報告書に対しても、九州電力側が反論コメントを出すなどしてきた。その結果、委員会報告書提出後も、九電側との応酬を繰り広げることになった(拙著第三者委員会は企業を変えられるか~九州電力やらせメール問題の深層】(毎日新聞社:2012年))。

福島原発事故後、「原発絶対安全の神話」が崩壊した後に、電力会社が、原発再稼働をめぐって発生した問題で失った信頼を回復し、社会の理解を得ていくためには、問題の本質を明らかにすることが不可欠であり、そのために最大限の努力を行うことは、第三者委員会委員長として当然の責務である。委嘱者である企業の経営トップが、調査の方針に介入してきても受け入れるべきではない。

もちろん、第三者委員会としての筋を通す事は、個人的な利益につながるものではない。私の場合、以前相当数あった電力会社からの仕事は、九電問題以降、全くなくなった。

しかし、社会に重要な影響を与える企業不祥事等の第三者委員会を引き受ける者としては、それも覚悟すべきことだろうと思う。

最近、企業不祥事における「第三者委員会ビジネス」が、弁護士業界の収益源と化したことが、第三者委員会の活動をゆがめているように思える。今回のNBO記事でも、第三者委員会の委員の松井弁護士から四大法律事務所の一角である森・濱田松本法律事務所のF弁護士を通じて、原発子会社の減損問題を調査の対象とするか否かを確認してきたとされているが、そうだとすれば、今回の第三者委員会と会社側の不透明な関係に、森・濱田松本法律事務所が関わっていたことになる。

今後、第三者委員会が機能するためには、今回のような問題が再び起きないよう対策を講じることが不可欠である。

企業側では、不祥事を発生させた執行部や社内取締役ではなく、社外取締役あるいは不祥事と関係のない立場の役員を中心に、不祥事ガバナンス体制を構築し、第三者委員会の設置や委嘱事項の範囲の検討、委員の人選等を行うべきであろう。

一方、第三者委員会の委員を受任する側、特に弁護士は、ガイドラインの趣旨を十分に理解し、「第三者委員会倫理」に則って活動することが必要だ。

重大な不祥事が相次ぐ中、信頼回復に向けての切り札となる「第三者委員会」は、形だけのものであってはならない。問題の本質に迫り、抜本的な改善を図ることに繋がる第三者委員会の活動こそが、企業の危機を救うのである。

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