美濃加茂市長事件控訴審、事実審理開始で重大なリスクを抱え込むことになった検察

昨日(8月25日)午後、名古屋高裁で、美濃加茂市長事件の控訴審第1回公判が開かれた。

検察官が控訴趣意書、弁護側が答弁書に基づいて、それぞれの主張を行い、裁判所は、検察官が行った証拠請求のうち、贈賄供述者中林の取調官の中村道成警部補と、弁護人が告発した中林の融資詐欺の捜査・処分を担当した苅谷昌子検事の二人の証人尋問を行うことを決定した。

【検察控訴趣意書と東芝不適切会計に共通する「偽装の構図」】でも述べたように、検察官の控訴趣意書は、書かれていることの大部分が証拠に基づいていない、或いは事実を歪曲しており、全体が「偽装建築」のようなものであり、答弁書で、その「偽装」を徹底的に引きはがした。裁判所も、双方の書面を読み、少なくとも控訴趣意書における検察官の主張も、それを前提に行っている証拠請求も、「苦し紛れ」のものであることは十分に認識したはずだ。

本来、刑事裁判においては、一審中心主義がとられており、証拠の請求、取調べは一審で行うのが原則だ。控訴審では、「一審で請求しなかったことについてのやむを得ない事情」がある場合にしか証拠請求ができない。「一審の無罪判決が予測不可能だったこと」を「やむを得ない事情」だとする検察官の理屈は論外であり、裁判所に認められる余地はない。それでも、裁判所が2人の証人尋問を決定したのは、検察官の証拠請求について「やむを得ない事情」が認められないとしても、裁判所独自に職権で取調べる必要があると判断したということであろう。

一日も早く無罪判決が確定し、藤井市長の無実・潔白が動かぬものとなることを望んでいる美濃加茂市民にとっても、市長の下で職務を遂行する市職員にとっても、これ以上、市長の裁判に時間がかかるのは耐え難いことであろうし、そういう意味では、控訴審での審理が続くことで、判決の確定が遅れるのは残念だ。

しかし、一方で、今回の事件をめぐっては、いまだに多くの謎が残されていることも事実である。

悪質極まりない手口で4億円近くもの融資詐欺を犯していることを自白している中林に対して、僅か2100万円の詐欺事件を立件しただけで、それ以降は、全く捜査の対象にせず、合計30万円の藤井市長への贈賄の容疑の取調べばかりを行ったのは、いかなる意図によるものだったのか、名古屋地検では、弁護人が4000万円の融資詐欺を告発するまで、中林の処分に対して、いかなる検討が行われ、いかなる求刑が予定されていたのか。

一審で、弁護人は、中林の供述経過に関して、「客観的資料との辻褄合わせ」の疑いなど多くの問題を指摘したうえで、中林の取調警察官である中村警察官の証人尋問を請求し、取調べの記録の証拠開示も求めたが、検察官は、中村警察官の証人尋問には強く反対し、取調べメモの開示にもなかなか応じず、最終的は裁判所の手続の中で取調べメモの一部だけを開示した。

ところが、一審で無罪判決を受け、窮地に追い込まれた検察官は、その中村警察官を自ら証人尋問請求し、その上、「中林の供述経過が合理的なものであることを示す取調べメモも存在していのに一審では不必要と考えて開示も証拠請求もしなかった」などと述べて証拠請求してきたのである。

検察官は、一審で主任検察官と中林が行ったような「連日、朝から晩までの綿密な打合せ」を、今度は、中村警察官との間で行って、中林の供述経過が合理的だというストーリーを作り上げてくるのであろうか。

取調べメモについて、私は、答弁書で

検察官は、刑事訴訟において強大な権限を与えられ、関連する証拠も、積極証拠であれ消極証拠であれ、すべて把握し、保持できる立場にある。それだけに、重大な消極証拠の存在が、事後的に明らかになった場合には「隠ぺい」が疑われ、逆に、存在していることを認識していたら当然証拠請求すべき積極証拠を事後的に出してきた場合には捏造が疑われるのは致し方ないところである。

と指摘した。

検察官は、そのような取調べメモが存在していることが一審の段階からわかっていたのに証拠請求しなかったと本気で主張するのであろうか。

控訴審裁判所は、このような検察官の証拠請求を「論外」と言って切り捨て、第1回期日で即日結審することも可能だったはずだ。敢えてそうせず、2人の証人尋問を決定したのは、控訴審裁判所が、現職市長が市長職を継続したまま一貫して無実を主張し、公判で戦い抜き、一審で無罪判決を勝ち取ったという「前代未聞の事件」について、なぜ、市長が逮捕・起訴されたのか、警察官・検察官は、どう判断して、どのような対応をしてきたのかという、誰しもが思う根本的な疑問について、真相解明の役割を果たそうという決意によるものであろう。

取調べメモが捏造ではないかとの疑いについても、中村警察官の証言が、組織を守ろうとして事実に反する証言を行うのではないかという点についても、控訴審裁判所は、十分な問題意識を持って審理に臨まれるのだろうと思う。

市長の冤罪が完全に晴れる「美濃加茂の本当の春」を待つ市民、市職員の皆さんには大変申し訳ないが、かくなる上は、控訴審裁判所の今回の決定を前向きに受け止め、警察、検察の捜査や取調べの過程を明らかにするための立証活動を徹底的に行っていくこととしたい。

検察官請求証拠がすべて却下され、第1回期日で即日結審していたら、年内に予想される次回判決期日での控訴棄却は確実であった。控訴審での事実審理が開始されることで、検察としては、無罪判決が早期に確定するという目の前のリスクをひとまず回避したことになる。しかし、それによって、この事件をめぐる「警察・検察の闇」が明らかになるという、重大なリスクを抱え込むことになった。

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