5700万円融資詐欺不起訴の陰に「贈賄供述者の企み」

藤井浩人美濃加茂市長の事件、今月24日の最終公判期日での弁論の準備に忙殺されているところに、名古屋地方検察庁から、処分通知書が届いた。藤井弁護団が同地検に10月24日に提出していた贈賄供述者の詐欺事件の告発ついて「不起訴」の処分を通知してきたものだった。

【美濃加茂市長事件、「検察の迷走」を象徴する実質審理の幕切れ】でも書いたように、我々藤井弁護団が告発していた4000万円の融資詐欺の事実で、10月20日、名古屋地検は、贈賄供述者中林を、有印公文書偽造・同行使、詐欺の罪名で追起訴した。中林が自白していた融資詐欺の大部分について、立件すらしていなかった検察は、藤井弁護団の告発によって、有印公文書偽造・同行使、詐欺という悪質な犯罪についての起訴不起訴の判断を覆したが、弁護人は、10月24日に、同種の5700万円の融資詐欺の事実について追加告発し、11月7日に開かれた中林の公判では、4000万円の融資詐欺の追起訴分の検察官立証が行われた上、さらに、追加告発分の捜査・処理のために1ヶ月先の12月10日に次回公判が指定されとのことで、追加告発についても起訴は必至だろうと思われた。

ところが、12月10日の公判期日までに追起訴は行われず、その日で中林の公判は、検察官が、懲役4年6月の求刑を行って結審、判決は来年1月16日と指定された。

そのような公判の進行からは、藤井弁護団の5700万円の追加告発に対する不起訴の処分通知は予想されたものだった。

この不起訴処分のことは、12日付けの中日新聞朝刊でも小さな記事で報じられており、同記事には、不起訴の理由に関して「中林被告の弁護人によると、被告の知人が金融機関に全額を弁済したという」と書かれている。

それにしても、この5700万円の融資詐欺の不起訴は不可解である。

当初は2100万円の起訴に止めていたのに、藤井弁護団の告発によって4000万円分を追起訴せざるを得なかった検察が、5700万円の追加告発の融資詐欺を不起訴にすることの理由が説明できるのか。

藤井弁護団としては、不起訴処分に対しては、当然、検察審査会への審査申立てを行う。地方公共団体の発注書を偽造するなど、有印公文書まで偽造して金融機関から融資金を騙し取る悪質な詐欺の事案である。犯罪事実が認められる限り、すべての事実を起訴して厳しく処罰するのが当然だ。

その不起訴の理由は、中日新聞の記事の中林の弁護人の話によれば「知人による全額被害弁償」だとのことだが、4億円もの融資詐欺を働いて、多額の未返済金を抱え、それ以外にも、勤務していた病院からの1億5000万円もの横領の被害弁償も未了で、全く金がないはずの中林に、5700万円もの被害弁償金を提供する「知人」などいるのか。

考えられるとすれば、貸金返済と称して中林が融資詐欺で銀行から得た金の大半の提供を受け、共犯として警察の強制捜査や取調べを受けていたHぐらいだ。Hは、藤井公判で証人として出廷し、「中林から藤井氏に贈る金を貸してほしいと言われて金を貸した」などと証言している。

仮に、「知人」から被害弁償金として5700万円を提供してもらえることになったとしても、普通であれば、既に起訴されている6100万円の詐欺の弁償の方を優先するはずだ。なぜ、起訴されている融資詐欺の6100万円の方をそのままにして、告発されている融資詐欺の被害弁償の方を優先するのか。

結審した中林公判では被害弁償の話は全く出ていないので、一審では実刑判決は免れない。それに対して控訴を申し立て、控訴審で「知人」が全額弁償すれば、一審判決後の事情として考慮され、執行猶予の可能性も十分にある。中林はそれを目論んでいるのかもしれない。

いずれにしても、追加告発分の詐欺を不起訴にしたことは、検察として、中林に対する現時点での精一杯の有利な取り計らいだと言えよう。もし、追加告発分の詐欺を起訴した場合、中林に対する起訴は総額1億3000万円近くになり、罪名も有印公文書偽造・同行使、詐欺であるから、求刑は懲役7~8年、判決も5~6年の実刑は避けられない。当初、僅か2100万円の起訴にとどまり、執行猶予の可能性もあると見込んでいた中林にとって、「全く話が違う」ということになり、贈賄供述を翻す恐れすらある。検察にとって最悪の事態を防ぐために、なりふり構わず追加告発分を不起訴にした、ということであろう。

中林は、11月19日の藤井公判での再度の証人尋問の前に保釈され、身柄拘束を解かれた状態で弁護人に付き添われて法廷に現れた。それについて、前記ブログで、検察として、保釈請求に反対意見を述べないことが、再度の証人尋問で贈賄供述を覆すことなく従前どおりの供述をすることへの見返りとしての中林へ有利な取扱いだった疑いを指摘した。5700万円の追加告発分の融資詐欺を不起訴にすることは、その証人尋問の前に、検察官と中林の間で行った「6~7回の打合せ」の中で約束されていたのかもしれない。

12月10日の公判で結審したことで、中林に対する判決言渡しが、藤井市長に対する判決より先行することは確実となった。贈賄を認めている中林の公判が早期に終結し、有罪判決が出ることで、その後に言い渡される藤井市長の判決で、同じ名古屋地裁での無罪判決を出しにくくしようという検察の思惑もあるのかもしれない。

ここで、改めて考えてみなければならないのが、憲法38条 3項で、「何人も、自己に不利益な唯一の証拠が本人の自白である場合には、有罪とされ、又は刑罰を科せられない。」とされ、それを受けて、刑訴法319条2項で、「被告人は、公判廷における自白であると否とを問わず、その自白が自己に不利益な唯一の証拠である場合には、有罪とされない。」と規定されていることの意味だ。憲法の規定は、他に証拠もないのに自白だけで処罰できるとすると、拷問等による自白の強要のおそれがあることから、人権保障の観点から、自白偏重捜査を抑止しようとするものだが、刑訴法は、「公判廷における自白」を含めて、他に証拠がない場合に有罪とされないとしていて、憲法より広い意味を含む。

本件では、中林の公判では、藤井市長が収賄を全面否認していているので、贈賄についての実質的な証拠は被告人中林の自白だけだ。

贈賄の起訴は、それによって融資詐欺が立件・起訴されないことを企んだ本人が強く望んだものであり、自白を唯一の証拠として有罪とされても、中林の人権上は、何ら問題はない。

しかし、このような不当な企みによる「自作自演」の犯罪で有罪を受けることが認められると、それに伴って、共犯とされた人間(本件において収賄で起訴された藤井市長)に対する重大な人権侵害が生じかねない。

こういうことも含め、たとえ被告人が公判廷で自白し、むしろ処罰されることを望んでいる場合でも、それだけでは有罪にすることはできないと解することが、憲法の人権保障の趣旨を本当の意味で活かすことになるのではなかろうか。

憲法と言えば、明日が衆議院の解散による総選挙の投票日である。当ブログ【現時点での衆議院解散は憲法上重大な問題】で書いたように、内閣の解散権がどのような場合に認められるのかという面でも、議員定数不均衡が法の下の平等に反するという面でも、今回の解散は憲法に反するものである。

ここでも、憲法が本当の意味で求めていることを、我々は、改めて認識するべきであろう。

いずれにせよ、「詐欺師」などのいかがわしい人物と結託して全国最年少市長を葬り去ろうとする捜査・公判のアクションは、来週の12月19日の公判での論告求刑で完結する。それは検察史上に汚点を残すものとなろう。

我々弁護団は、12月24日の弁論で、信用性に重大な疑義がある中林の贈賄供述に、なぜ検察が取り込まれ、引き返すことなく、起訴・有罪立証・論告求刑まで突き進んでしまったのか、その構図を含めて本件の真相を明らかにすべく全力を尽くしていく。

もちろん、それと並行して、中林の企みを目論み通りにさせないための「次の一手」も、確実に打っていく。

 

 

 

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5700万円融資詐欺不起訴の陰に「贈賄供述者の企み」 への1件のフィードバック

  1. Hideki Shutou より:

    郷原信郎様、美濃加茂市長、藤井浩人氏に対する、検察の違法捜査、またかの観がします。未だにこの様なやり方が存在するのか、信じられませんが、酷い話ですね。特定秘密法も施行され危機感を覚えます。郷原信夫殿、真実を是非とも追求お願いいたします。美濃加茂市長、藤井浩人氏の無罪を勝ち取って下さい。

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