検察にとって「泥沼」と化した美濃加茂市長事件控訴審

2月23日に開かれた美濃加茂市長事件の控訴審の裁判所、検察、弁護人の三者打合せで、今後の審理の予定がほぼ確定したので、その結果について、早くブログ読者の皆さん(とりわけ、美濃加茂市民の方々)にお伝えしなければならないと思っていましたが、翌日の2月24日の衆議院予算委員会中央公聴会で公述人として意見陳述を行ったことや、公聴会での意見陳述の際に議員の一人から誹謗中傷発言を受けたことへの対応などに煩わされたことなどもあって、遅くなってしまいました。

2月23日の三者打合せの結果、次回5月の公判期日において、贈賄供述者中林の証人尋問が裁判所の職権で行われる予定になったことについては、同日、裁判所内の記者クラブでの記者会見で明らかにしましたし、既に、各紙で報道されています。(その後、期日は5月23日に決まりました。)また、名古屋地裁での一審から、この裁判を傍聴し取材してくれているジャーナリストの江川紹子さんからの取材に応えて、別途、打合せの結果について説明しており、江川さんは、【高裁が職権で最重要証人を尋問へ~美濃加茂市長の事件で異例の展開】と題して、記事にしてくれています。

江川さんも書かれているように、「高裁が職権で最重要証人を尋問」という事態になっていることについて、控訴審で、一審の無罪判決が覆る可能性が出てきたのではないかと心配されている美濃加茂市民の方もおられるのではないかと思いますが、主任弁護人の私としては、そのようなことは全く心配しておりません。

控訴審の審理が当初の予定より時間がかかっていることについては、美濃加茂市民の皆様には申し訳ないと思いますが、審理の経過は弁護人側にとって極めて順調であり、今回、実施されることになった贈賄供述者の証人尋問で控訴審の事実審理は終了し、夏から初秋にかけて控訴審判決が言い渡され、藤井浩人市長の潔白が明らかになるものと確信しています。

控訴審のこれまでの経過は、控訴した検察にとっては、まさに「泥沼」と言える状況であり、検察幹部は、組織の面子だけにこだわって控訴したことを激しく後悔しているものと思います。

一審では、市長逮捕後の圧倒的な有罪視報道に対抗して、市長が潔白であることを美濃加茂市民の方々に信じてもらうため、ブログ、ツイッター、ニコ生などを通じて、捜査状況や一審の経過等について、弁護人からも発信を続けてきましたが、一審で無罪判決を勝ち取ることができたことから、控訴審では、検察官からの挑戦を受ける立場として、裁判経過についての発信は、記者会見での対応など最小限にとどめてきました。

しかし、既に、控訴審第1回公判期日から半年以上経っており、美濃加茂市民の方々にも、この辺りで現状をご説明しておく必要もあると思いますので、現時点で、明らかにできる範囲で、お伝えしたいと思います。

一審無罪判決の主な理由と控訴審での検察官の主張

昨年3月5日に言い渡された名古屋地裁での一審判決は、①捜査段階における中林の供述経過、記憶喚起の経過に関して、中林の説明内容に疑義があること、重要な事実に関して変遷し、不自然であること、客観的な事実を示されて、それに符合するような供述を行った可能性があることなどの問題点を指摘し、中林供述の信用性を否定する背景事情として、②「中林が融資詐欺に関してなるべく軽い処分、できれば執行猶予付き判決を受けたいとの願いから、捜査機関の関心を他の重大な事件に向けることにより融資詐欺に関するそれ以上の捜査の進展を止めたいと考えたり、自身の情状を良くするために、捜査機関、特に検察官に迎合し、少なくとも、その意向に沿う行動に出ようとすることは十分にあり得るところである」とした上で、「(平成26年)3月26日に融資詐欺に関して2回目の起訴がなされた後、被告人の弁護人らの告発を受けて同年10月20日に融資詐欺に関して3回目の起訴がなされるまでの間、融資詐欺に関する起訴はなされておらず、上記告発がなされるまでは具体的な起訴の予定がなかったものと考えられ、結果的に見れば、中林の期待に沿う有利な展開になっていたと言える」などと判示して虚偽供述の動機の存在の可能性を認めました。

これに対して、検察官は控訴趣意書で、まず、(1)中林証言を離れ、証拠によって認められる「中林と被告人との癒着」と「癒着の深まり」に関する客観的な間接事実から現金の授受が推認されると主張し、控訴審裁判所に「有罪」を印象づけようとしました。

そして、控訴審での事実審理で、検察官が行おうとしたことは、(2)取調べ警察官に中林の供述経過・記憶喚起の経過と、証拠請求している取調べメモが中林の取調べ時に作成したものである旨を証言させ、証言と取調べメモの両方によって、中林供述について、一審判決が指摘している上記①の「客観的な事実を示されて、それに符合するような供述を行った可能性」を否定しようとする立証、(3)中林の融資詐欺事件の捜査・処理を担当した検察官の証人尋問で、中林の融資詐欺の捜査・処理の経過及び処分理由等を証言させることで、検察官が、中林の融資詐欺の捜査処理に関して有利な取扱いを行ったことがなく、一審判決が判示した上記②の「虚偽供述の動機の存在の可能性」を否定しようとする立証、という二つの面からの立証でした。

控訴審での検察官立証の「迷走」

このうち、控訴趣意書での検察官の(1)の主張は、書かれていることの大部分が証拠に基づいていない、或いは、事実を歪曲しているという、ほとんど「偽装」に近いもので、弁護人の答弁書で、その「偽装」の一つひとつを徹底して引き剥がしていったことは、答弁書を提出した昨年7月のブログ【検察控訴趣意書と東芝不適切会計に共通する「偽装の構図」】で述べたとおりです。

弁護人からは、裁判所に対して、検察官の証拠請求を認めず、ただちに結審して控訴棄却することを求めましたが、8月25日に行われた控訴審の第一回公判期日で、裁判所(木口信之裁判長)は、(2)について中村道成警察官、(3)について苅谷昌子検察官の証人尋問を行うことを決定しました。

ところが、尋問されることになった苅谷検察官というのは、平成26年9月4日に、名古屋地検が、弁護人による告発を受理した後に、中林の融資詐欺の告発事件の捜査・処理を担当した検察官で、それ以前の中林の融資詐欺の事件の捜査・処分には全く関わっていませんでした。検察官は、苅谷検察官の証言予定事実を記載した書面を提出しましたが、同告発以前の捜査経緯は、同人が直接体験したことではなく、すべて、愛知県警捜査二課担当者や当時の担当検察官からの伝聞だったのです。

一審判決は、「告発がなされるまでは、中林にとって(中林の融資詐欺の捜査が)当初の期待に沿う有利な展開になっていたといえる」と指摘して、中林が、虚偽の贈賄の事実を自白する動機が存在した可能性があったことを認めましたが、そこでの「有利な展開」というのは、弁護人の告発が行われる前のことです。

「虚偽供述の動機が存在した可能性」に関する最大の問題は、平成26年2月から3月にかけて中林が起訴された2件の融資詐欺の捜査経緯と、それ以外に中林が総額3億6400万円に及ぶ詐欺について自白していたのに、それらの事案について、弁護人による告発が行われるまで、捜査も起訴も全く行われなかったのが、いかかなる事情によるものだったのかだったのか、という点ですが、苅谷検察官はこの点についての捜査・処分には全く関与しておらず、証言できる立場ではなかったのです。

事実が争われている裁判では、自分が「直接」体験した事実でなければ証言させられません。もし、検察官が、苅谷検察官にそのような伝聞証言をさせようとしたら、弁護人が「異議」を述べ、証言が制止されることになります。

弁護人からは、検察官が主張していることは、苅谷検察官が証言可能な事項ではなく、むしろ平成26年2月から3月までの融資詐欺の捜査を担当した愛知県警捜査二課の警察官に「直接」証言させるべきだと指摘し、検察官が証人尋問を請求しないのであれば、弁護人から証人尋問請求を行う方針を示しました。しかし、検察官は、頑なに、警察官の証人尋問の請求を拒否し、弁護人が証人尋問請求をしようとすると、「控訴審は一審判決の当否を審査する『事後審査審』なのに、弁護人は、その範囲を超えて審理のやり直しを求めている」などと、言いがかりをつけてきました。

弁護人が、「苅谷検察官自身が経験した融資詐欺の捜査・処理については、その部分に限定した苅谷検察官の報告書が証拠請求されれば、その書証の取調べに同意する」と述べたところ、内容を限定した書証が採用されました。その結果、苅谷検察官を証人尋問して証言させるべき事項がなくなってしまったので、昨年12月11日の第3回公判に予定されていた苅谷検察官の証人尋問は取り消されたのです。

苅谷検察官の証人尋問を行う旨の決定を行った木口裁判長は、9月末に退官し、その後任としてこの裁判を担当することになった村山浩昭裁判長が、この証人尋問の取消決定をしました。

結局、控訴審での検察官の立証は、証人尋問としては、中林の取調べを担当した中村警察官だけになりました。

それ以外に検察官が請求していた主な証拠は、(ア)その取調べの際に中村警察官が作成したとする「取調べメモ」、(イ)中林が贈賄を自白した後に、知人のA氏が、中林に頼まれて贈賄資金を貸したと供述したことで中林証言が裏付けられたという「供述の前後関係」を立証するためのA氏の上申書、(ウ)中林が起訴された後に初めて事情聴取を受けたB氏が、中林から「市長に30万円ぐらい渡した」と話したという「供述の前後関係」を立証するためのB氏の検察官調書でした。

このうち、(ア)の取調べメモについては、弁護人から、そもそも、供述経過については、本来、録音・録画等の客観的記録を残しておくべきで、それを、いつ、どのように作成したのかもわからない取調べメモで立証しようとするのは不当だと主張し、検察官が都合の良い部分を断片的に拾い上げて立証しようとしている可能性があるとして、取調べメモ全体を証拠開示するように請求しました。

その結果、検察官は、開示した中林の取調べメモの中に、検察官が請求した「手書きの取調べメモ」と同じ時期に作成された「ワープロ打ち取調べメモ」があり、そこには、手書きメモで検察官が主張していることとは異なった供述内容が記載されていることがわかったのです。

惨憺たる結果に終わった中村警察官の証人尋問

中村警察官が作成した取調べメモにも、そのような重大な食い違いがあることが明らかになった後、昨年11月26日に、中村警察官の証人尋問が行われたのですが、それは、検察官にとって惨憺たる結果でした。

中村警察官は、二つの取調べメモの食い違いについて、「ワープロ打ちメモの方は、上司への報告のために、実際の供述とは違うことを書いた」と証言したり、(「手書きメモ」に書いているように)中林が第一授受のガスト美濃加茂店にT氏が同席していたどうか「記憶がはっきりしない」と述べていたのに、最初に作成した中林の警察官調書ではT氏が「いなかった」ことになっていることに関して、「若いころから、先輩には、調書というのは基本的には断定で取るもんだよという話を聞いて実践してきたことから、高峰がいなかったと断定して調書を作成した」というようなことを証言したり、その証言内容は、凡そまともな捜査官の証言とは思えないものでしたが、特に決定的だったのは、中林が、取調べの中でガスト美濃加茂店にT氏が同席していたことを思い出した経緯に関しての証言でした。

一審で中林は、ジャーナル(利用人数が3人だったことを示す店の資料)を見せられる前に、高峰が同席していたことを「自分で思い出した」と証言していたのですが、中村警察官は、「ジャーナルから3人で利用していることが判明し、その回答結果を中林に見せたところ、中林は、特に驚いた様子もなく『ああ、高峰さんいたんですね』と言った」と証言したのです。検察官は、中村警察官が、一審での中林証言と明らかに食い違った証言をしたことに気づき、弁護人の反対尋問が終わった後の再主尋問になって、「あなたが記憶違いをしているということは考えられませんか」と質問し、これに対して、中村警察官は、「全部覚えているわけではありませんので、まあ、もしかしたらということは確かにあるかもしれません」などと証言しました。警察官が、証言の最後になって、自分の記憶の曖昧さを認めるという結果になったのです。

(イ)の上申書、(ウ)の検察官調書については、A氏もB氏も一審で既に証人尋問を行っており、そこで質問すれば良かったもので、控訴審で証拠にできるようなものではありません。検察官は、それらの書証を裁判所に採用してもらうために、供述の時期を立証するためのもので「非供述証拠」だなどと屁理屈を持ち出していましたが、昨年12月11日の三者打合せで裁判所から「証拠採用しない」との判断が示されました。

極めて異例の最重要証人の職権尋問

こうして、控訴審での検察官立証が「迷走」を続け、ズタボロになった後に、村山裁判長から、控訴審での中林の証人尋問を検討していることが明らかにされ、2月23日の三者打合せで、5月に証人尋問を行うことが事実上決定されたのです。

控訴審裁判所が、職権で最重要証人の証人尋問を行うというのは、極めて異例のことです。本件公判において証言の信用性が強く争われ、一審無罪判決においてその信用性に重大な疑問があるとされた贈賄供述者の中林という人物について、控訴審において、中林の取調べ警察官である中村道成の証人尋問が行われ、一審での中林証言と同人の証言との間に相反する部分も生じていることを踏まえて、控訴審裁判所としても直接話を聞いて信用性を判断したいという趣旨だと思われます。

一審で、中林証言の信用性が否定されて無罪判決が出されているわけですから、その中林を控訴審で再尋問するというのは、本来、弁護人として歓迎すべきことではないはずですが、我々としては、中林が供述する現金の授受の事実など全くなく、藤井市長は潔白だと確信していますし、中林の証人尋問を重ねれば重ねるほど、その証言の信用性を否定する方向に働くものと考えています。これまでの控訴審における事実審理の経過からも、控訴審で中林の証人尋問が行わることについて、反対はせず、裁判所の公正な判断に委ねることとしました。

本来、中林証言の信用性について一審判決の判断を覆そうとするのであれば、検察官の方から、控訴審での中林の再尋問を請求するのが通常だと思います。ところが、検察官は、再尋問を請求しようとしないどころか、裁判所が中林を再尋問するかもしれないという話が出た時点から、尋常ではない狼狽ぶりでした。検察官は、打合せの場で、「時間もかなり経過し、記憶の後退等もある」などの理由で再尋問に反対する姿勢を見せていましたが、その後の書面では、「もし、裁判所が再尋問の必要があると判断する場合には検察官からも証人尋問請求する」との意向を示してきました。

検察官は、中林の再度の証人尋問には反対だが、もし、裁判所が尋問を行うということであれば、いきなり裁判官から質問されると中林が何を言い出すのか予想がつかないので、事前に、中林と「証人テスト(打合せ)」をしたいと考えて、「検察官からも尋問を請求する」と言い出したと思われます(「証人テスト」は、証人尋問を請求した当事者が尋問準備のための行うものです)。一審では、主任検察官と中林との間で「証人尋問の打合せ」が、「連日朝から晩まで休みもなく」行われていたことが明らかになり、一審判決でも、検察官と中林との間で「入念な打合せ」が行われたことが証言の信用性を否定する事情の一つとして指摘されました。

検察官が中林の「証人テスト」を行えば、一審と同じように、中林の供述を検察官に有利な方向にガチガチに固めようとしてくることは明らかで、中林の「生の話」を直接聞いてみたいという控訴審裁判所の公正な証人尋問を妨害するものだとして、弁護人からは、検察官の証人尋問請求にも、「証人テスト」を行うことにも強く反対しました。

このような検察官の姿勢に対する村山裁判長の姿勢は徹底したものでした。検察官の証人尋問請求については、裁判所の意図に反しているので、もし、請求しても却下すると明言し、「検察官は証人テストを控えてもらいたい。もし、証人テストを行った場合には、中林の証言の信用性の評価に影響する」と検察官に釘を刺しました。

ということなので、【江川さんのブログ】では、「異例の控訴審での最重要証人の職権尋問」について、落合洋司弁護士と元裁判官の木谷明先生の二人の見方が紹介されていますが、「裁判所としてできるだけ証人の素の記憶を知りたいということではないか」という木谷先生の見方の方が裁判所の意向に近いと思います。

村山裁判長は「裁判所が直接尋問するというのは、それ自体リスクはあるが、質問の仕方を工夫して、法廷で必要に応じて資料を示して記憶を喚起しながら質問を行いたい」と述べて、公判廷で、中林から生の証言を聞き出すことに意欲を示しています。

美濃加茂市民の皆さん、裁判所の公正な尋問によって、なぜ、中林が、無実の藤井美濃加茂市長を陥れるような、全く事実に反する供述を行ったのか、なぜ、一審で検察官の意向に沿った証言を続けたのか、真相が明らかになることを期待しようではありませんか。

 

 

 

 

 

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 検察にとって「泥沼」と化した美濃加茂市長事件控訴審 への2件のフィードバック

  1. 裸の王様 より:

    検察の組織的不正義
    ・職権濫用による容疑者に対する優遇措置と司法取引
    ・証人に対する偽証の教唆扇動
    を白日の下に晒す事を目的とする職権尋問であり、
    村山裁判長は、特別公務員職権濫用罪の適用までも視野に
    入れていらっしゃるように思えてなりません。

  2. ピンバック: 八田氏国賠訴訟、「控訴違法」で窮地に追い込まれた国・検察 | 投資家速報

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