マルハニチロ子会社農薬混入問題は、「個人の犯罪」か「企業不祥事」か

食品会社「マルハニチロホールディングス」の子会社「アクリフーズ」の工場で製造された冷凍食品から農薬マラチオンが検出された問題で、昨年12月29日に、マルハニチロが記者会見を行い、対象商品の自主回収を発表した。

年の瀬を控えた時期に、にわかに表面化した大手食品企業グループの商品の農薬汚染問題は、年をまたいで連日マスコミでも報じられており、アクリフーズ製の冷凍食品を食べて「嘔吐」「下痢」「腹痛」などを発症したなどの被害申告は、全国37都道府県、359人に上っている。

これまでの被害申告は、摂取した直後の「吐き気」などの急性症状が多いが、マラチオンを含む「有機リン系殺虫剤」については、子供の体質によっては、慢性の中毒症状を引き起こす恐れがあるとの指摘もある(【食品に混入された有機リン農薬「マラチオン」の”毒性”について自ら調べないマスコミ】)

因果関係が不明確な慢性的な症状まで被害として問題にされるようになると、さらに大きな社会問題に発展する可能性もある。

12月12日に公刊した拙著【企業はなぜ危機対応に失敗するのか~相次ぐ『巨大不祥事』の核心】でも述べたように、昨年7月以降、カネボウ化粧品、みずほ銀行、阪急阪神ホテルズと企業不祥事が多発したが、今回の問題は、それらの不祥事とは異なる。食品企業が製造販売した商品に有毒成分が含まれ、それによって「吐き気」などの健康被害が生じているという点では「企業不祥事」である。しかし、検出された農薬は、通常の製造過程で混入した可能性は殆ど考えられず、何者かが人為的に混入した可能性が高いとされており、その点では、「個人の犯罪」である可能性が高く、既に警察が業務妨害罪の容疑で捜査に着手している。

しかし、外部者の侵入が極めて困難であることから、企業の内部者による犯行が疑われており、個人の意図的行為によるものであっても、企業組織の何らかの問題に起因している可能性が高い。そういう意味では、「個人の犯罪」であると同時に、「企業不祥事」の性格があることも否定できない。

●マスコミ報道の現状

警察の捜査は開始されたばかりであり、現時点では、事件の真相は全く不明である。それどころか、工場での入室管理や、勤務体制に加え、農薬の混入が多数の商品に及び、混入の期間にもかなりの幅があることからも、外部者による農薬混入は極めて考えにくいということがわかっているだけで、犯人像ははっきりしない。

マスコミも、自主回収の発表の時点と、その時の説明で毒性を過小評価していたことで再度行われた記者会見の時点では大きく報道したが、その後は、県当局の立入検査、警察捜査の動きと、被害申告の拡大などの客観的事実を報じているだけで、企業に対する批判・非難の論調はほとんど見られない。

同じ食品企業をめぐる問題であった2000年の雪印乳業集団食中毒事件とは大きく異なる展開となっている。雪印事件では、大阪工場で製造した加工乳が黄色ブドウ球菌による毒素で汚染されていたことが早期に判明したが、その毒素混入の原因がなかなか特定できず、警察捜査の結果 食中毒発生の1ヶ月半後に、北海道の大樹工場で起きた停電で脱脂乳が加温状態におかれたことが原因となって生じた毒素が、その後、大阪工場での加工乳製造の原料に混入していたことが判明した。原因不明の間、社長の記者会見での失言など会社側の危機対応の拙劣さもあって、大阪工場の製造設備や製造方法など、様々な問題がマスコミによる雪印バッシングのネタにされ、雪印乳業は、「雪印」ブランドによる事業が困難な状況になった。

同じ「原因不明」でも、雪印乳業の場合は、個人犯罪の疑いは全くなく、いずれにしても工場での製造過程で原因物質が発生したことが明らかであり、原因が解明できないことも企業への批判につながったのに対して、今回のマルハニチロ子会社の農薬混入問題は、個人の意図的行為による可能性が高く、企業がどのような責任を負うべき問題なのかが、現時点では不明であることから、マスコミも、どう報道してよいかわからない、ということなのであろう。

しかし、食品企業にとって、製造工程で製品に農薬が混入するというのは、絶対にあってはならない問題であり、何者かが意図的に混入したものであったとしても、製造工程の管理についての責任は免れない。いずれにしても、「企業不祥事」であることは否定できないのであり、被害が全国規模に拡大し、慢性症状も問題にされかねないことを考えると、企業経営にとっても重大な問題だと言えよう。

このような事態が発生した際に、企業としての危機対応が極めて重要であることは、言うまでもない。しかし、今回の問題に対するこれまでのマルハニチロ側の危機対応には、大きな問題があった。上記のようなマスコミ報道の状況から、それが大きな批判・非難につながっていないだけである。

今後の同種の事案への対応に関する教訓という観点からも、マルハニチロ側の危機対応の問題を指摘しておく必要があろう。

●自主回収の遅れ

まず、最初に冷凍食品から異臭がするとの報告があってから1か月半も経った後に、自主回収に至ったことについて対応の遅れが問題となる。

会社側は、工場内での塗料の付着可能性を考え、原因物質の特定に時間を要したと説明している。確かに、農薬の人為的混入というのは会社側としては想定していなかったことであろうし、問題を公表すれば、膨大な商品の自主回収は避けられないことから、慎重な検討を行った上で自主回収を決定したというのもわからないではない。しかし、塗料の付着であれ何であれ、「異臭」が通常の製造工程では発生しないものであることは明らかであり、健康被害の可能性は否定できなかったのであるから、消費者の視点に立って考えた時は、遅くとも、同様の異臭の報告が9件も寄せられた12月初めの段階では、自主回収を行うべきであった。迅速に対応していれば、今回全国に拡大している被害も相当程度防止できた可能性がある。

前掲拙著】で取り上げた昨年の3大不祥事の一つ、カネボウ化粧品の美白成分ロドデノールによる「白斑被害」の問題については、同社が、美白成分と「白斑様症状」との因果関係が不明なまま、突然の自主回収を発表したことに対し、問題を把握した時点から、消費者への情報提供を徹底していくべきであったと述べている。この化粧品の場合と、今回のような食品の場合とでは、事情が異なる。化粧品の場合は、消費者側の使い方によっても「白斑様症状」の発生の可能性は違ってくるのであり、「日焼け後の使用」「重ね塗り」への注意喚起を行うことでも、相当程度被害が防止できたはずである。しかし、食品の場合はそうではない、消費者にとっては食べるか食べないかしか選択の余地はないのである。健康被害を生じる可能性があると判断した段階での速やかな自主回収は不可欠である。しかも、化粧品の場合は、自主回収によって当該製品の将来にわたっての全面的製造販売中止が避けられないのに対して、食品の場合は、原因が解明され再発防止策がとられれば、同種製品の製造販売再開は可能である。マルハニチロ側の自主回収の決定の遅れは、食品企業として重大な問題があったと言わざるを得ないだろう。

●毒性を過小評価する説明

この点に関連して、それ以上に重大な問題として指摘すべきなのが、会社側として初めて、この問題を世の中に明らかにした、自主回収発表の段階で、その農薬が人体に及ぼす影響について、毒性を過小評価する説明を行い、厚労省から指導を受けて、再度記者会見を開いて訂正せざるを得なくなったことだ。

当初のマルハニチロ側の説明は、農薬の濃度が1万5千PPMと最も高かった「とろ~りコーンクリームコロッケ」について「体重20キログラムの子供が60個食べないと(中毒症状は)発症しない」というものだったが、厚労省の指導によって、「最も濃度が高いコロッケは子供が8分の1個を食べると症状が出る可能性がある」と訂正したのである。

同社の当初の説明の根拠は、「実験で投与した動物の半数が死ぬ量」を基準とし、体重1キロ当たり1グラムで計算したものだが、厚労省が、この基準を使うのは不適切であり、健康に悪影響を及ぼさないと推定される限度量(急性参照用量)を基準とするよう求めたことを受けて訂正されたものだった。

実際に、異臭による「吐き気」などの健康への影響が生じている今回のようなケースでは、混入した農薬の健康への影響がどの程度のものであるのかについて、正確な情報を提供することが極めて重要だ。とりわけ、一個当たりの価格が安い商品が大部分であるだけに、「健康被害の可能性がほとんどない」との会社側の説明は、商品が冷凍庫内にそのまま放置されたり消費されたりすることにもつながる。マルハニチロ側が、農薬の健康への影響の程度に関して、厚労省も放置できないと判断するほど、誤った説明をしてしまったのは、健康被害という実害にもつながりかねないのであり、食品企業としての「消費者の視点に立った対応」そのものを疑問視されてもやむを得ない大失態である。

さらにいえば、自主回収の遅れに関して、マルハニチロ側がいくら、原因物質が特定できなかったなどと弁解をしても、健康への影響について過小評価した説明をするという無神経さをさらけ出してしまったのでは、弁解も到底受け入れられないものとなってしまう。

●過去の食品企業不祥事との違い

製品の品質・安全性に関する過去の企業不祥事では、むしろ、危険性や健康への影響が過大に報道され、企業が不当に批判・非難される例が多かった。

その典型例が、2008年の伊藤ハム東京工場で起きた、工場用水からシアン化合物が検出された問題だ。この問題については、拙著【思考停止社会 「遵守」に蝕まれる日本】(講談社現代新書)で取り上げている。

同年10月25日、伊藤ハムは記者会見を行って、工場で使用している地下水からシアン化合物が検出されたことと、ソーセージ、ピザなど合計331万パック(賞味期限切れ、受託生産分を含む)を自主回収することを公表した。

これは、千葉県柏市の伊藤ハム東京工場での同年9月18日の定期検査で、使用する地下水から水道法の基準値(1リットルあたり0.01ミリグラム)を上回る0.02ミリグラムのシアン化合物が検出され、10月15日の再検査の結果でも基準値を上回ったので、自主公表、自主回収に至ったものだった。

しかし、シアン化合物が微量検出されたのは食品製造に使用した地下水からで、それを、食品製造に使用しても、個々の食品に含まれるシアン化合物は、ほとんど数字で表せないほど微量になるため、実際に自主回収の対象となった商品からはまったく検出されなかった。しかも、地下水の含有量は、日本の水質基準は若干超えるものの、もともと日本の基準は厳しく設定されているため、世界保健機関が飲料水質ガイドラインで定める基準でみると、その3分の1以下だった。国際的な水準からは、飲用水にしても全く問題はない含有量である。全国生活協同組合連合会のホームページによると、この地下水で製造したソーセージを1日390袋一生食べ続けても健康上まったく問題ないというレベルだった。

このように、まったく健康への影響がないレベルの問題なのに、この問題は、同社の会見の翌日の朝刊で、一面トップ、社会面トップなどで大々的に報道された。シアン化合物が検出された段階で、その事実をただちに公表しなかったことが「隠ぺい」に当たるとして批判された。そして、多くの記事に、シアン化合物の毒性について、「大量に摂取すると窒息症状やめまい、頭痛、けいれんなどを起こす」などという解説も付された。伊藤ハムは、各紙の社説などでも厳しく批判され、東京工場の閉鎖という事態にまで追い込まれたのである。

この問題は、健康被害など全くなく、しかも、それが生じる可能性も全くないのに、「猛毒のシアン化合物」という言葉だけが独り歩きして、世の中に誤解され、企業が不当な批判・非難を受けた事例である。そのような誤解を生じさせないためには、記者会見の場でも、「この地下水で製造したソーセージを1日390袋一生食べ続けても健康上まったく問題ない」ということを、会社側でもっと強調しても良かった。

しかし、今回のアクリフーズの問題は、異臭による「吐き気」などの健康への影響が生じているのであり、伊藤ハムの事例とは全く異なる。当然、健康被害の可能性についての説明を正確に行うことが最も重要なのに、伊藤ハムのような過去の食品企業の不祥事での教訓が逆に働いてしまったのか、健康被害の可能性を過小に説明するという、全く的外れな対応をしてしまったのである。

しかも、29日の会見で農薬の健康への影響について誤った説明を行い、31日未明に再度の会見を行わざるを得なくなったことが、報道のタイミングに関しても最悪の結果を生じさせた。「マルハニチロの子会社の商品に農薬が混入し、しかもその毒性を過小評価したことで厚労省の指導を受けた」というニュースは、31日の朝からテレビ、新聞などで報じられ、31日夜には、年間を通じても最高の視聴率の番組NHK「紅白歌合戦」の最中のニュースでも報じられた。大規模食品企業にあるまじき失態が、大晦日のお茶の間で「紅白歌合戦」を視聴する全国の消費者にあまねく周知されたことは、同社のブランドイメージにとっても大きなマイナスを生じさせることになったといえるだろう。

●食品企業として問題をどう受け止めるか

もう一つの、ある意味では最も本質的な問題は、今回の問題を、どうとらえるのか、という点だ。

今回の農薬混入が個人犯罪なのだとすれば、犯人の特定が行われない限り、原因や背景について真相はわからない。しかし、企業が管理する製造工程内で、企業が雇用する従業員が働く場所で発生した問題なのであるから、いずれにしても、その原因は、何らかの形で企業の事業活動に関連している可能性が高い。当事者の企業としては、真相は不明であっても、あらゆる可能性を考え、原因となり得る要因を可能な限り把握し、問題の再発に向けて最大限の努力をしていく必要があろう。

食品の製造工場の衛生管理、入室管理は極めて厳重であり、外部者はもちろん、従業員といえども、工場の製造ラインの中に外部から農薬を持ち込むなどということが容易にできるとは思えない。もし、持ち込まれたとすると、極めて巧妙な方法で隠して持ち込み、しかも、それを他の従業員の目を盗んで巧妙に食品に混入したということになる。そうだとすれば、単なる「悪ふざけ」などではなく、何らかの意図を持って計画的に行われたことになる。このアクリフーズという企業、そして、その工場に、工場内部者の会社への不満、反発が生じる可能性はなかったのであろうか。

●企業不祥事に翻弄されたアクリフーズの歴史

アクリフーズは、もともとは雪印乳業の冷凍食品製造部門であったが、2000年に発生した前記雪印乳業集団食中毒事件による経営悪化から、冷凍食品部門を分社化した子会社「雪印冷凍食品株式会社」として設立された。

さらに、2001年の雪印食品の牛肉偽装事件の影響で、「雪印」ブランドでの事業が困難になり、2002年10月に「アクリフーズ」に社名変更、2003年10月に、ニチロに買収され、2007年にニチロがマルハグループに経営統合されたのに伴って、マルハニチロホールディングスの100%子会社となった。

そして、今年2014年4月には、アクリフーズを含むマルハニチログループの主要4社が、マルハニチロホールディングスに経営統合されることが既に公表されており、独立した企業としての歴史に幕を閉じる予定になっている。

雪印の時代に相次いだ不祥事、そして、会社消滅間際に同社自身が起こしたのが、今回の農薬混入事件だった。まさに、不祥事に翻弄され続けたのが、同社の歴史だったと言えよう。

同じ食品企業でも、乳業会社と水産会社とでは、組織のDNAも異なるであろうし、予定されている経営統合の目的は経営の合理化・効率化なのであるから、アクリフーズが行ってきた食品製造業務の内容や人員配置などにも様々影響を及ぶことになるのであろう。

このような会社の状況の中で、社員、従業員の側から人事、待遇面などの不満が背景となって今回の事件が起きた可能性はないのであろうか。

食品企業としてどう対応すべきか

アクリフーズ製冷凍食品による被害申告は全国に拡大し、今なお増え続けている。1月4日時点で、回収予定の商品数640万個に対して、回収された商品は、111万個であり、回収率は17%にとどまっている。消費者側に、低価格の冷凍食品を、わざわざ着払い冷凍便で返品してもらう手間をかけてもらおうと思えば、それなりの代償を支払うことも覚悟すべきであろう。「現品到着後、後日、改めてお品代(商品券)をお支払します」という程度では、実際に返品してくれる消費者は限られる。

1月3日にアクリフーズが設置を公表した「事故調査委員会」のメンバーも、委員長がアクリフーズの社長、副委員長が同社の常務、委員も同社の上部、「他委員」の5人の中にマルハニチロホールディングスのCSR統括部長、経営企画部長が含まれているに過ぎない。今回の問題が「子会社のアクリフーズの問題」に過ぎず、しかも、「同社の従業員と思われる犯人による個人的犯罪」という認識を反映しているのではなかろうか。

こうしたマルハニチロ側の対応は、自社グループの工場内で農薬が混入された製品が、今なお、消費者の家庭の冷蔵庫内に残存していることに対する危機感があまりにも希薄なように思える。

私は、かねてから、コンプライアンス問題には、個人の意思で個人の利益のために行われる単発的行為としての「ムシ型」と、組織的、構造的な背景の下で時間的・場所的な拡がりを持って行われる「カビ型」の二つの要素があるという指摘をしてきた。

今回の問題が、個人が意図的に行わった農薬の混入という「個人の犯罪」であれば、その点においては「ムシ型」だと言える。しかし、それは、「カビ型」的要素を否定するものではない。犯人が特定されず、直接的原因が明らかにならなくても、今回の問題を重大な「企業不祥事」ととらえ、その背景となり得る要因を可能な限り広く明らかにしていくことが、消費者被害の拡大防止と再発防止、そして、食品企業としての信頼回復につながるのである。

 

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