お上にひれ伏す「巨大不祥事」企業

12月19日、消費者庁は、阪急阪神ホテルズなど3社に対して、景表法違反による排除措置命令を出し、同社に対しては、8品目の表示について、「実際のものより著しく優良であると示す表示」に当たるとして、「景品表示法に違反するものである旨を、一般消費者へ周知徹底すること」などの措置を講ずるよう命令した。

26日には、金融庁が、「暴力団員向け融資」問題で、みずほ銀行に対して、提携ローンに関する業務について、1カ月間の業務停止命令を出した。そして、経営管理体制に問題があったとして、みずほ銀行に加えて、親会社のみずほフィナンシャルグループにも業務改善命令を出した。これを受けて、同社の塚本隆史会長は引責辞任を表明した。

今月12日に公刊した拙著【企業はなぜ危機対応に失敗するのか~相次ぐ「巨大不祥事」の核心】で取り上げた2013年の3大企業不祥事のうちの二つについて、年末に、慌ただしく行政庁の処分が出されたということになる。

cover同書で指摘したように、これらの不祥事は、当事者の企業の危機対応の失敗によって世の中に重大な誤解が生じ、誤解が企業への不信を生み、不信を解消するための対応が更なる誤解を生む、という誤解と不信の連鎖によって「巨大不祥事」になったものだ。しかし、今回、誤解は全く解消されなかったどころか、行政庁の正式の処分が出たことによって、誤解を拡大することになったマスコミ報道が追認されるような形で決着が図られることになった。

それぞれの行政処分には法的に問題があるわけではない。行政庁の裁量の範囲内で権限を行使したに過ぎない。しかし、いずれについても、処分の内容が問題の中身に応じたものなのか、同種事例との公平が保たれているのかどうかなどの点に疑問がある。

消費者庁は、「実際のものより著しく優良であると示す表示」について、「広告・宣伝の要素を含む表示では、表示対象である商品・役務が消費者から選択されるように、ある程度の誇張がなされることもあるが、一般消費者もある程度の誇張があることを通常認識していることから、広告・宣伝に通常含まれる程度の誇張があっても、一般消費者の適切な選択を妨げるとは言えない。しかし、この許容される限度を超えるほどに実際のもの等よりも優良であると表示すれば、一般消費者は、広告・宣伝に通常含まれる程度の誇張を割り引いて判断しても、商品・役務の内容が実際のもの等よりも優良であると誤って認識し(誤認し)、その商品・役務の選択に不当に影響を与えることとなる。このように『著しく』とは、当該表示の誇張の程度が、社会一般に許容される程度を超えて、一般消費者による商品・役務の選択に影響を与える場合をいう。」という解釈を示している(「メニュー・料理等の食品表示に係る景品表示法上の考え方について(案)」)。

阪急阪神ホテルズに対する消費者庁の排除措置命令の対象とされた表示が、この解釈に照らして、「実際のものより著しく優良であると示す表示」に当たるかどうかが、疑問なものも少なくない。

典型的なのは、新阪急ホテルの「シーファー」という店舗で、「苺とチョコのシューア・ラ・モード シューアイスに苺と生クリームを加えた甘さがたまらない一品。手作りチョコソースと合わせてどうぞ」と表示していたが、チョコソースに市販されている業務用のチョコソースを使用していたことが「優良誤認表示」とされたことである。

「手作りチョコソース」は、「シューアイスに苺と生クリームを加えた」料理の本体ではなく、それに掛ける「ソース」を、その店で「手作り」をしていなかったという問題である。

しかも、前記拙著でも述べたように、阪急阪神ホテルズの出崎前社長が辞任を表明した記者会見の際の説明によれば、「手作り」と表示したチョコソースは、「既製のチョコレートリキュールとコーヒークリームを混ぜたもの」だということである。

一般消費者による商品・役務の選択の判断は、その表示を行う店舗がどの程度のグレードの、どの程度の価格設定の店なのかによって異なることは言うまでもない。「手づくりチョコソース」という表現は、食通が利用する高級店であれば厳密さが求められるであろうが、HPによれば、飲み放題付2960円のコースもある比較的低価格の店「シーファー」における消費者の選択に、チョコソースの「手作りの程度」がどれだけ影響したといえるのだろうか。

それ以上に問題なのは、今年の6月17日と同月22日に、経営する全国のホテルで、地鶏ではない鶏肉を「地鶏」と表示した件、「バナメイエビ」を「芝海老」と表示していた件など合計25店舗64品目の「食材とメニュー表示の違い」があったことを公表したプリンスホテルに対しては、景表法違反による調査も措置も全く行われていないということだ。阪急阪神ホテルズは、プリンスホテルの事実公表を受けて自主的に内部調査を行い、判明した事実を公表したが、阪急阪神ホテルズだけが排除措置命令の対象とされた。

その前の5月には、ディズニーランドを運営するオリエンタルランドの子会社が経営するホテルで、ブラックタイガーを「車海老」、交雑種の国産牛を「和牛」などとしていたことを公表している。ブラックタイガーを「車海老」と表示していたのは、阪急阪神ホテルズと同時に消費者庁から排除措置命令を受けた「ザ・リッツ・カールトン大阪」の問題と同じである。

同様の犯罪や違法行為が他にも行われているのに、なぜ自分だけが摘発されるのか、という不満に対して、説明に使われるのが「犯罪・違法行為を認める証拠があるから摘発したのであって、証拠がないものは摘発できない」との説明である。「周りの車もすべてスピード違反をしているのになぜ自分だけが」と文句を言っても、「違反が計測されたのが、あなたの車だからだ」と言われれば致し方ない。

しかし、今回の排除措置命令に対しては、そのような説明はできない。プリンスホテルの事例についても、ディズニーランドのホテルの事例についても、当事者が事実を認めて公表していて、証拠は十分だからである。

景表法違反の排除措置命令が行われた場合、違反に対しては罰則適用もあり得るのであり、法執行機関の消費者庁に運用の公平性が求められるのは当然である。

排除措置命令を受けた阪急阪神ホテルズと、受けなかったプリンスホテルの最大の違いは、後者の問題は、殆どマスコミは取り上げなかったが、阪急阪神ホテルズはマスコミで大きく取り上げられて叩かれたことである。

阪急阪神ホテルズの問題は、マスコミに叩かれ、社会的にも大きな問題になったため、処分を出さないではいられなくなった消費者庁が、同社が厳しい批判を受けて反発も反論もできない状態になっていることに乗じて、出したのが、今回の排除措置命令だったと見るべきであろう。

もう一つの行政処分が、みずほ銀行に対する業務停止命令である。この命令の理由の中で、金融庁は、「取締役会は、重要事項の審議を行う会議体として、実質的な議論をほとんど行っておらず、その機能を発揮していないほか、経営政策委員会の一つであるコンプライアンス委員会が有効に機能するような方策を講じていないこと」「縦割り組織の弊害などガバナンスを含めた根本的な問題の洗出しや、これを踏まえた抜本的な改善対応を迅速に行っていなかったこと」と述べている。取締役会、コンプライアンス委員会によるガバナンスが機能しておらず、その原因が「縦割り組織の弊害」にあるということである。

持ち株会社のみずほフィナンシャルグループに対しても、同様のガバナンスに関する指摘のほか、「平成23年3月に発生したシステム障害時の教訓等を踏まえつつ、適切なグループ経営管理機能を発揮していなかった」との指摘も行っている。

これらの指摘自体は正しいのかもしれない。しかし、それらは、今回の提携ローンをめぐる反社対応の問題で指摘されるべき事項であろうか。

この問題は、世の中には、みずほ銀行が「暴力団員関係者には融資をしない、融資をしていたことがわかったら、ただちに契約を解消して回収すべし」、という義務に違反したという単純な義務、銀行であれば当然の義務に違反した、全く弁解の余地のない話のように受け取られた。しかし、今回のオリコを通じての提携ローンの問題は、そのような単純な話ではない。かつて暴力団対策として企業に求められた「不当要求の拒絶」の問題ではなく、反社会的勢力との「一切の関係の遮断」というシステムの構築に関する問題である。

みずほ銀行には、提携ローンを通じた融資に関しても、「一切の関係遮断」という観点からの積極的な取組みが求められていたが、そういう方向への発想の転換が不十分であったため、銀行幹部も含めた組織的な検討を適切に行っていなかったことが問題なのである。

しかし、反社会的勢力との「一切の関係遮断」という発想に転換していくことが容易ではないことは、みずほ銀行だけの問題ではない。「一切の関係遮断」を行うことは、対象とする反社関係者の範囲をどうするか、約定どおりに返済が行われている場合に、ただちに期限の利益を失わせ、一括返済を要求することが適切なのかなど、様々困難な問題があり、他の金融機関においても、その対応には相当に苦慮している。9月27日に行われた金融庁の当初の業務改善命令も、果たして、「一切の関係遮断」という発想の転換を十分に踏まえたものであったのか疑問である。

当初の業務改善命令でのもう一つの指摘は「反社会的勢力との取引が多数存在するという情報が担当役員止まりとなっていたこと」であるが、それも、金融庁の誤認に基づくものであり、その原因は、みずほ銀行が事実に反する報告をしたことだけではなく、金融庁側の検査のあり方にもあったことは否定できない。

みずほ銀行への業務停止命令と、自社への業務改善命令を受けて、みずほフィナンシャルグループは、委員会設置会社へ移行することを発表した。取締役の選任・解任を決める指名委員会、取締役の報酬を決める報酬委員会を設置し、それらの委員はすべて社外で構成することを発表した。相当思い切ったガバナンス改革であり、それ自体は、評価できるものである。

しかし、それが、今回のように「行政庁の処分」を受けて行われることに、私は大きな違和感を覚える。

コーポレート・ガバナンスは、企業経営の根幹をなすものであり、私企業であれば、それは、本来、自主的な、かつ自律的に行われるべきものである。お上の威光にひれ伏すように打ち出されたガバナンス改革策によって、みずほ銀行のガバナンスは抜本的に改善するのであろうか。むしろ、社外中心の取締役会、各種委員会は「お飾り」のようなものになり、実質的な意思決定は、金融庁の意向を過度に忖度する執行部門によって行われることになるのではなかろうか。

今回の二つの行政庁の処分、そして、その対象とされた企業の対応は、処分権限と裁量を有する官庁と民間企業との圧倒的な力の差を見せつけるものであった。

特定秘密保護法が、行政権限の肥大化と、官僚組織による情報の独占をもたらす立法であり、その背景に、自民党が、衆議院選挙で圧勝して政権に復帰し、今年7月の参議院選挙でも圧勝して、衆参両院において安定的な勢力を維持する政治状況があることは、当ブログの【特定秘密保護法 刑事司法は濫用を抑制する機能を果たせるのか】で指摘したところだが、行政権限の肥大化は、企業不祥事をめぐる官と民の関係にも及んでいるように思える。

「食材偽装」問題についての消費者庁の排除措置命令、みずほ銀行の「暴力団向け融資」問題についての金融庁の業務停止命令は、私が前記拙著で述べている、「企業の危機対応の失敗は、その企業のみならず業界全体、そして、世の中にも大きな影響を生じさせる『巨大不祥事』を招く」ということを、まさに実証したものとも言える。

しかし、それらの「お上」の処分が、重大な誤解をそのまま封印して問題を「幕引き」させることになり、そして、民間企業は、常に「お上」の意向を忖度しないと事業活動ができないという事態につながるとすれば、私は、それを容認することは到底できない。

今後も、同書を中心に、「誤解」と「不信」の連鎖によって不祥事が「巨大化」するプロセスを明らかにし、それを防止・解消するための努力を続けていきたい。

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お上にひれ伏す「巨大不祥事」企業 への1件のフィードバック

  1. Yasuhide Hada より:

    確かにその通りです。困ったことに。

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