「カネボウ美白化粧品」、なぜか話題にされない“3つの重要な論点”

カネボウ化粧品が、「ロドデノール」という美白成分を含有する化粧品で「まだらに白くなる症例」が報告されたために、全製品の自主回収を発表した問題。その後の問い合わせの件数は22万件を超えるなど、大きな社会問題になりつつある。

この問題は、化粧品の品質・安全性に関する問題が指摘されたのに、企業側の対応が遅れ、健康被害が拡大した不祥事のように単純化され、あたかもカネボウ化粧品だけが悪いかのような報道が続いているが、この問題が、そのように単純化できる問題ではないことは、【カネボウ美白化粧品、「花王の判断」は正しかったのか?】などの拙稿でも述べてきた。

この問題に関しては、重要な3つの論点についての議論が抜け落ちている。
第一に、カネボウ化粧品の美白化粧品を使用した2424人について「3箇所以上の白斑」「5cm以上の白斑」「顔に明らかな白斑」のいずれかの症状があり、2125人にこれら以外の症状があることが確認されているが(8月9日カネボウリリース)、これらの「白斑様症状」の中のどれだけの数が、他の原因ではなく「ロドデノール」によって発症したものなのかが不明だという点である。
第二に、「ロドデノール」以外の他の美白化粧品について、同様の「白斑様症状」が発生していないのかという点。
第三に、今回の問題について、「ロドデノール」を医薬部外品として承認した厚生労働省にも責任があるのではないかという点である。

第一の点に関しては、上記拙稿でも繰り返し指摘しているように、「ロドデノール」と「白斑様症状」との因果関係は全く明らかになっていない。
今回のカネボウ化粧品の自主回収の措置を受けて、7月17日、日本皮膚科学会において「 ロドデノール含有化粧品の安全性に関する特別委員会」が設置され、「美白成分ロドデノール含有化粧品使用後に生じた色素脱失症例 医療者(皮膚科医)向けの診療の手引き」が公表されているが、同手引きでは、「本事例は、化粧品の使用後に発症している症例が少なからず確認された事実から、因果関係を強く疑っているものの、まだ十分に解明されていない状況のなか、企業の判断による自主回収に至ったものです」と述べて「企業の判断」を強調した上で、「白斑様症状」の診断についての留意点を指摘している。その中で、「美白成分による白斑様症状から除外すべきもの」として、白色粃糠疹、乾癬、強皮症、熱傷、老人性白斑などが、「鑑別が困難なもの」として、薬剤性の光線過敏症、尋常性白斑を挙げている。
特に注意を要するとしている「尋常性白斑」は、原因不明の後天性の脱色素斑で、皮膚の色を作っているメラノサイト(色素細胞)が消失することにより発症するものであり、自己免疫疾患、環境要因の組み合わせにより引き起こされ、2010年の調査の結果、疾患発生率は1.68%だったとされている(尋常性白斑 – Wikipedia)。 カネボウの美白化粧品の使用者は25万人とされているが、その1.68%は、4200人である。
また、美白成分ロドデノールによる白斑様症状との鑑別が難しいと思われる症例数は、相当な数に上ると思われ、症状が確認されている人数の中の、「ロドデノール」の使用に起因する白斑様症状の「被害者」の数が、実際にどのような数なのかは、現時点では全く不明である。しかし、多くの新聞、テレビ等の報道では、申告者数が、そのままロドデノールによる「被害者数」であるかのように扱われている。

第二の点について、上記手引きでは、「(株)カネボウ化粧品は他社製品に問題が波及することを危惧しており自社製品のみが問題であると報告しています。しかしながら同じ作用機序を有する美白化粧品の安全性についての情報はまだ得られておらず、安全であるとも、危険であるとも言えない状況です。」と述べている。皮膚科学会の側が、「自社製品のみが問題」とするカネボウ化粧品側の姿勢を疑問視しているのであるが、この点は、上記手引きが公表された後も、見事なまでに無視されてきた。
美白化粧品、使っても大丈夫? 白斑はトラブル品だけ、過剰に恐れる必要なし>(産経)などと、他の化粧品の使用では「白斑様症状」が起きないかのような報道もある。この産経のネット記事では、「東京医科大学皮膚科の坪井良治教授は『化学構造のほんの少しの違いで人に与える影響が異なってくる場合もある。白斑の症状が出たのはロドデノールという成分特有の可能性が高い。全ての美白化粧品に問題があるわけでなく、必要以上に恐れる必要はない』と指摘する」などと、上記の皮膚科学会の手引きの記載に反する内容の「専門家コメント」を掲載している。
ようやく、最近になって、<白斑被害はカネボウだけの問題なのか>(東洋経済オンライン) など、他の美白化粧品の使用による「白斑様症状」を問題視する記事が見られるようになり、8月8日には、田村厚生労働大臣も、記者会見で、同様の白斑被害がないか他の化粧品メーカーなどに自主点検を求める方針を明らかにした。
今回の騒ぎを他の美白化粧品にまで拡大させるべきだという意図は毛頭ない。私が言いたいのは、「ロドデノール」と「白斑様症状」との因果関係が全く不明である以上、他の「美白成分」についても「白斑様症状」の発現の有無を確認し、比較してみないことには、疫学的な観点からも、「ロドデノール」を含有する美白化粧品の品質・安全性について、どの程度の問題があったのかは、判断できないのではないか、ということである。

そして、第三の論点は、仮に、美白成分ロドデノールを含有する化粧品の品質・安全性の問題であるとすれば、厚労省の医薬部外品としての承認に問題はなかったのか、という点が問題になるはずであるのに、その点は殆ど話題にすらなっていないことである(この点を問題にする数少ない記事の一つが、上記の東洋経済オンラインの記事である)。
ロドデノール(4-(4- ヒドロキシフェニル)-2-ブタノール)が、メラニンの生成を抑え、しみ、そばかすを防ぐ新有効成分として医薬部外品の承認を受けた際の、平成19年9月21日薬事・食品衛生審議会化粧品・医薬部外品部会の議事録を見ると、ロドデノールを含む薬用化粧品の承認に関する議事の中で、いくつか重要な指摘や議論が行われている。
まず、医薬品医療機器総合機構の審査結果の説明の中で、「329例という多数例のモニター調査が実施され、製剤濃度の倍の濃度のものを長期間使ってみても、白斑など細胞毒性作用を有さないことが確認された」と報告されている。つまり、厚労省は、この薬用化粧品の成分について「白斑を生じさせる恐れ」についても審査し、問題ないとの判断を下している。
また、委員の一人が、「効能・効果に『日やけ・雪やけ後のほてり』と書いてあるのに、一方で、使用上の注意に『日やけ後は肌の赤みやひりひり感が治まってからお使いください』と書いてあるのは矛盾しているのではないか」と指摘し、機構の審査担当者が、「肌が赤いときやひりひりするときは使用しない、肌状態が悪いときには使用しないということです。日やけ、雪やけ後のほてりに使うというのは、日やけしたり雪やけしたりする前に塗っておくと少しは抑えることができるということです。」と答えたのに対して、「それなら『日やけ・雪やけ後のほてりを防ぐ』と書かなくてはおかしいのではないか」と指摘し、厚労省の審査管理課長が、「『ほてりを防ぐ』という表現の方向で検討する」と答えている。
しかし、結局、同部会で「ロドデノール」の医薬部外品としての承認が議決されているが、この点について、「効能・効果」「使用上の注意」の書き方について変更が加えられた形跡はない。
そして、皮膚科の専門医である部会長が、ロドデノールに含まれている成分の一つについて、「食品や化粧品として国内でも外国でも使われていると書いてあるが、接触皮膚炎のような報告はないのでしょうか。というのは、ハイドロキノンがベンゾキノンに変わった途端に非常にかぶれやすくなるのです。資料を見ると非常に安定して、紫外線にも安定のようですが、実際に顔に付けて日に当たると事情が変わる可能性もある」と指摘したのに対して、機構の審査担当者が「それについては把握しておりません。」と答えただけで終わってしまっている。
今回の「白斑様症状」が日焼け後に発症するケースが多いことは、カネボウ側の発症事例の説明の中でも、当初から言われてきたことであるが、その中には、「日やけ後は肌の赤みやひりひり感が治まってからお使いください」という使用上の注意を守らなかったために発症した事例が含まれている可能性がある。使用上の注意と矛盾する「日やけ・雪やけ後のほてり」という効能・効果の記載にも問題があったのではないか、日に当たると接触皮膚炎を起こしやすくなるのではないか、などの点について上記部会での指摘があったのに、それらの意見、指摘を反映させることなく、機構の審査結果に基づいてそのまま承認したことが、今回の「白斑様症状」の発生につながった可能性もある。
厚労省の医薬部外品としての承認に問題があったということであれば、カネボウ化粧品の責任にも少なからず影響を与えることになろう。

冒頭に述べたように、今回の「カネボウ美白化粧品問題」は、「化粧品の品質・安全性に関する問題が指摘されたのに、企業側の対応が遅れ、健康被害が拡大した不祥事だ」と単純化できる問題ではない。「白斑様症状」が本当に美白成分ロドデノールによるものなのか、他の美白成分を含む化粧品には同様の問題は生じていないのか、厚労省による医薬部外品としての承認には問題がなかったのか、というような観点も含めて、考えてみなければ、そもそも何が問題なのか、どこに問題の本質があるのかが明らかにならないし、カネボウ化粧品及び親会社の花王が、今回の問題をどのように受け止め、どのような再発防止措置をとるべきなのかについて適切な判断を行うこともできない。

今回の問題の報道に関して、マスコミが、上記の3点を殆ど報じない理由は不明であるが、「ロドデノール」と「白斑様症状」の関係に関する現時点での客観的事実について十分に理解しないまま、非を認めて自主回収したカネボウ化粧品を叩くことに終始しているように思える。上記の皮膚科学会の「診療の手引き」や、今後も、同学会から出される「白斑様症状」に関する客観的な検討結果・判断を踏まえた冷静な報道を行うべきであろう。

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「カネボウ美白化粧品」、なぜか話題にされない“3つの重要な論点” への2件のフィードバック

  1. inkyo より:

    申請したカネボウ、審査に当たった独立行政法人医薬品医療機器総合機構および認可した厚労省に問題はなかったのかはなはだ疑問です。

    官僚による天下り問題が審査のあり方にも反映されているのでは。

  2. らくだ より:

    チェルノブイリでも見られた晩発性の放射線障害の一つに白斑があります。日本での白斑は因果関係が証明できませんが、可能性はあります。(医師)

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