「オリンパス監査検証委員会」設置の目的と今後の課題

12月12日午前10時から、新日本監査法人の「オリンパス監査検証委員会」の初会合が開かれ、終了後、記者会見が行われた。

委員長には大泉隆史弁護士(元大阪高検検事長)、私は調査担当委員として弁護士調査チームによる調査を総括し、調査報告書を取りまとめる。他に、監査論が専門の高田敏文東北大学会計大学院教授、会計学が専門の藤井秀樹京都大学大学院教授も委員として加わっている。

この委員会は、オリンパス第三者委員会の調査報告書で、現在同社の監査人として会計監査を担当している新日本監査法人について、「前任のあずさ監査法人からの業務引き継ぎ」と「ジャイラス社の配当優先株買い取りの際の報酬ののれん計上」の2点について、「問題なしとしない」との指摘が行われたことを受けて設置されたものである。

新日本監査法人は、2011年9月下旬に、当時のオリンパス社長のウッドフォード氏のオリンパス社取締役会に対する質問のメールのコピーが送付され始めたことを契機に外部通報対応としての内部調査を行い、その後、同社が、11月8日に適時開示をした時点で損失隠しを認識し、更に本格的な内部調査を行った結果、監査手続きに問題は見当たらないとしたのであるが、事柄の重要性にかんがみ、自らの判断のみで良しとするのではなく、外部有識者による客観的な検証を行うために、この委員会を立ち上げることになった。

本来、日弁連の「不祥事に係る第三者委員会ガイドライン」で言うところの「第三者委員会」というのは、不祥事を起こし信頼を失墜した企業等の組織が、外部の第三者による調査、原因分析、再発防止策の策定によって、信頼を回復することを目的として設置するものである。今回のオリンパスの問題に関して、新日本監査法人は、自らの監査手続き等に関して問題があるとは認識していないのであり、そういう意味で、今回の新日本監査法人の検証委員会は、「不祥事」を起こしたという前提で設置される一般的な「第三者委員会」とは異なる。

自ら「不祥事」と認識していない今回のオリンパス問題に関して、なぜ外部者による委員会を設置したのか。そこには、日本社会のみならず国際的にも大きな注目を集めている今回のオリンパス問題に関する監査の問題が、単に一企業の監査だけにとどまらず、監査及び監査法人の在り方、あるいはその社会的位置づけを問い直す契機にもなり得る重大な問題だという認識がある。

そのような認識に基づいて、監査法人としての判断を、内部の調査だけではなく、客観的な検証を行った上で行うことを目的として、今回の検証委員会が設置された。検事長経験者の弁護士を委員長に、コンプライアンス、不祥事調査専門弁護士、監査論及び会計学の研究者というメンバー構成で委員会を組織したのも、そのような趣旨に沿うものである。

今後、調査担当委員の私の下に、九州電力第三者委員会でも調査チームの総括を務めた赤松幸夫弁護士、梅林啓弁護士を中心とする弁護士調査チームを組織し、委員長や他の委員の意見も踏まえ、オリンパス第三者委員会の調査報告書で指摘された点を中心に調査を行い、その調査結果を調査報告書として取りまとめ、検証委員会としての議論を経て検証委員会報告書として公表することになる。年内には、調査報告書を中心とする検証委員会の中間報告書を公表し、2月末を目途に最終報告書を公表する予定だ。

このように、自らの組織にとって「不祥事」と認識していない問題について、独立した第三者による調査・検証を行うというのは、かなり異例である。新日本監査法人側でも相当勇気がいる決断であったことは想像に難くない。その決断が、新日本監査法人のみならず、今後の我が国の監査制度及び監査法人の在り方にも有益だったと言われるよう、検証委員会としての役割を果たさなければならないと思う。

このところ、検察問題や電力会社問題に関する活動ばかりで目立っていた私がなぜ監査法人問題の調査に関わるのか、意外に思われるかもしれないが、実は、私は、監査法人の問題とは浅からぬ縁がある。

2007年、新書「『法令遵守』が日本を滅ぼす」を公刊した頃から、私は、組織のコンプライアンスの全体的検討のための「法令環境マップ」という手法を開発し、様々な分野に応用してコンプライアンスに関連する調査・検討を行い、その中で「監査法人法令環境マップ」プロジェクトに取り組んだ。

「会計ビックバン」によって監査法人の経済社会・証券市場における位置づけが大きく変わり、監査の厳格化・品質管理が求められる中で、公認会計士法が改正されて課徴金制度が導入されというような、監査法人の業務環境の急激な変化の中で、その業務そのものに関して、或いは、労働環境、情報環境、競争環境等の監査法人組織を取り巻く様々な環境要素の相関関係の中で、どのようなコンプライアンス・リスク発生しているのかを具体的に把握するため、監査法人の執行部や各部署からヒアリングを行い、詳細な資料・文献調査を行うなど、1年半をかけて取り組んだ成果を報告書に取りまとめた。

そして、そのプロジェクトが完了する直前の2008年3月に、まさに業務環境と情報環境の激変に関連して発生したのが新日本監査法人の元職員によるインサイダー取引事件であった。この事件について、新日本監査法人が設置した第三者委員会の委員長を務め、監査法人の全社員・職員を対象とする調査を実施し、原因分析、再発防止策の策定を行ったが、私は、その委員長を務めた。

そして、5月に公表した第三者委員会報告書では、問題の背景として、会計監査の厳格化・品質管理の強化に対応すべく監査法人の寡占化・大規模化による労働環境の変化が、監査法人が顧客企業側から受領する会計情報の不正流用の可能性という情報環境に関する問題を生じさせていたことを指摘した。

監査法人のコンプライアンス問題に関わるのは、この時以来3年半ぶりである。上記のプロジェクトやインサイダー取引の第三者委員会による知識・経験をベースに、検証委員会としての活動を行っていこうと考えている。

外国人社長のウッドフォード氏の突然の解任から始まったオリンパス問題は、同氏が海外のメディアや捜査当局等に告発を行ったこともあって、国際的にも注目を集めることになった。そして、巨額の損失隠しの問題が表面化、反社会的勢力への資金提供、経営者の個人的利得など様々な憶測が入り乱れ、一大企業スキャンダルに発展した。

そうした中で12月6日に公表されたオリンパス第三者委員会の調査報告書は、反社会的勢力への資金提供等を否定する一方、問題を、①バブル経済崩壊後の金融資産運用損の累積、②損失分離スキーム、③損失解消スキームの3つに整理した上で、財テクの失敗を正面から認めることなく隠し続け、時価会計への会計基準変更後もファンドによる飛ばしを用いるなどして、巨額損失を隠し続けた歴代のオリンパス経営陣を、「金融商品取引法や会社法に違反する行為であることはもとより、投資家に正しい情報を提供すべき上場企業としてあってはならないことである」と、厳しく批判している。

資金の流れに関するスキャンダルについては、最終的には、今後、刑事事件の捜査による解明を待つしかない。むしろ、今、重要なことは、上記の第三者委員会の調査報告書の指摘を具体化すること、つまり、オリンパス問題というのが、企業会計上いかなる問題なのか、どこにどのような違法性、悪質性があるのか、どの時点で、証券市場或いは投資家にどのような影響を与えたのかを、冷静に客観的に明らかにすることである。

その点に関して、明らかなことは、上記2の損失分離スキームによって巨額の損失が隠ぺいされ、その時点におけるオリンパスという上場会社の財務状況の開示内容が事実と異なっていたこと、しかし、一方で、分離された巨額の損失は、3の損失解消スキームを使ったことが会計手続上の問題はあったとしても、それによって、同社の事業収益で解消され、その後は、資産・負債の関係は証券市場や投資家に対して正しく開示されているということだ。

そういう意味で、巨額の損失の「飛ばし」の発覚で経営破綻に追い込まれた山一証券や、巧妙な粉飾決算で債務超過の実態を隠していたカネボウの問題などとは異なる。

どの時点の投資判断に影響を与えたかと言うと、少なくとも、2の損失分離スキームが行われていた間は、巨額の損失の隠蔽が、その時点における同社株に対する投資判断を誤らせるものであったことは明らかだ。しかし、その時点でオリンパス株の売買を行った投資家にとっては損失の隠蔽が継続している間は、損失隠しの影響は生じない。その間に反対売買を完了した投資家は影響を受けず、そのまま最近まで投資を継続していた投資家のみが、今回の損失隠し発覚による株価の急落によって大きな影響を受けた。

しかし、損失隠し発覚の時点では、3の損失解消スキームによって、損失が隠蔽された状態は既に解消されており、会社の財務内容は投資家に基本的には正しく開示されている。

ただ、「巨額の損失隠しを行っていた」「その損失をM&A等を用いた会計手続上問題のある方法で解消した」という過去の事実が明らかになり、それが「上場廃止」「行政処分」「強制捜査」等、オリンパス社に重大な不利益が生じる事態に発展する恐れが生じたために、株価に重大な影響が生じ、それによって、その時点の投資家が大きな不利益を被った、という事実経過である。

この構図は、2004年9月期の連結決算についての粉飾決算の問題に関して、2006年1月に検察が強制捜査に着手したことで、株価が急落し、投資家が莫大な損害を被ったライブドア事件と似ている。起訴事実とされたライブドア事件における粉飾決算の違法性や悪質・重大性については様々な意見があるが、いずれにせよ、2004年9月期の連結決算に関して粉飾決算の事実があっても、それは、実際に株価が急落して損失を被った2006年1月の時点の投資家の判断にはほとんど影響を与えていない。株価の急落は、その時点でのライブドアの財務内容や経営実態についての判断によるものではなく、検察の強制捜査によって「ライブドアは犯罪企業であり、捜査・刑事処分や東証の上場廃止等によって経営危機に至る」というメッセージが証券市場に伝わったために生じたものだ。

この事件では、検察は、その強制捜査の後、実際に、堀江貴文氏を始め会社幹部を逮捕・起訴し、いずれも有罪判決が確定し、東京証券取引所はライブドアを上場廃止にするという結末になったことから、強制捜査着手時点での検察の市場へのメッセージとそれによる投資判断は、一応事後的にも裏付けられた形になっている。

ところが、オリンパス問題については、東京証券取引所が上場廃止の措置をとるかどうかが注目されていたが、本日、同社の会計監査を担当する新日本監査法人が、同社の2011年9月中間期決算に対して「適正」の意見を出したことで、上場が維持される見通しだと報じられている。

問題は、「金融商品取引法違反」との判断がどうなるかであるが、証券取引等監視委員会や検察当局の動きは、今のところはない。今後の展開は予断を許さないが、オリンパス問題の違法性、悪質・重大性に関して、最終的にどのような判断が示されるのかは、現時点では不確定な状況であり、損失隠しの表面化の時点での株価急落を招いた、「上場廃止」「行政処分」「強制捜査」などの事態に発展する恐れを前提とする投資判断が裏付けられるかどうか、現時点では不明である。

「飛ばし」が経営破綻につながった事例とは異なり、決算報告への計上を先送りされた損失は、その後、本業の利益を原資に、③の損失分離スキームによって解消された。オリンパス経営陣側がそれを予測した上で、限られた期間内損失計上を回避しようとしただけであれば、少なくとも「飛ばし」によって経営破綻を先送りした事例と比較すると悪質性は低いということになる。その場合は、まさに今回の問題に対する責任は、上場企業として証券市場に対して企業の財務状況について適宜適切な開示を行う義務を中心にとらえられることとなる。

今回の「オリンパス監査検証委員会」での当面の調査の焦点は、オリンパス第三者委員会の調査報告書で指摘された二つの点であるが、その前提として、オリンパス問題自体を企業会計の観点からどう見るのか、違法性、悪質・重大性をどう評価するのかという点についての検討・評価を行うことも避けては通れない。

それは、いまだ不確定なオリンパス問題についての法的、会計的評価にもなにがしかの影響を与え得るだけに、一監査法人が設置した検証委員会ではあっても、調査・検討・判断の客観性、公平性が強く求められることになる。新日本監査法人の内部者のみならず、前任のあずさ監査法人の関係者などの外部者にもヒアリングへの協力を要請せざるを得ない。それだけに、外部からの信頼が確保できるよう、調査の公平性と適正さが不可欠である。そのことを肝に銘じて調査に取り組んでいきたい。

(初出:メルマガ  http://www.comp-c.co.jp/pdf/111214.pdf

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