組織の不祥事に関する「第三者委員会」とは

官庁、企業等の組織の不祥事が表面化した場合に、「第三者委員会」が設置されるケースが相次いでいる。

国主催の説明番組における「やらせメール問題」に関して設置された九州電力の第三者委員会では、私が委員長を務め、現在、弁護士調査チームによる調査が行われている。また、その問題を契機に原発説明会等での原子力・安全保安院側の電力会社等へ発言・動員の要請等が表面化したことから、経産省は、大泉隆史弁護士・元大阪高検検事長を委員長とする第三者委員会を設置した。

このような組織の不祥事に関する第三者委員会は、国、企業等の組織からの依頼に基づくものであるが、一方で、当該組織からの独立性が確保され、中立的、客観的な観点から調査、検討、提言を行うことが求められる。

それは、どのような目的を持って、どのような姿勢で活動を行うべきか、依頼者側の組織の意向との関係をどう考えるのか。とりわけ私企業が依頼者の場合には、経営陣の意向との関係、調査事項、公表の在り方等に関して多くの困難な問題がある。

過去に多くの企業の第三者委員会に委員長として関わってきた私の経験を踏まえ、昨年出された日弁連の「企業不祥事における第三者委員会ガイドライン」(以下、「日弁連ガイドライン」参照にも言及しつつ、この種の第三者委員会をめぐる問題について整理した上、現在行っている九州電力の第三者委員会の在り方にも触れたいと思う。

組織の不祥事における第三者委員会の目的とは、どのようなものであろうか。

コンプライアンスを「組織が社会的要請に応えること」ととらえる私の見解を前提に考えると、第三者委員会の目的は、基本的には、不祥事やそれに関連する問題について事実解明、原因究明、再発防止策の策定を行うことによって、不祥事によって失われた社会的信頼を回復し、当該組織を、より「社会的要請に応えられる組織」にすることを目的とするものである。社会的要請に応えることは、当該企業が社会から存在と活動を認められる前提であり、企業の場合は、それが基本的に企業価値を維持・向上することにつながることは言うまでもない。

この点に関して、日弁連ガイドラインでは、第三者委員会とは「不祥事を起こした企業等が、企業の社会的責任(CSR)の観点から、ステークホルダーに対する説明責任を果たす目的で設置する委員会である」としている。

これに対して、同ガイドラインが「ステークホルダーに対する説明責任」を強調していることを疑問視し、第三者委員会の存在意義を、「本来経営陣が担っている責任と同様に当該企業の「(中・長期的な)企業価値の維持・防衛」にあるとする見解もある(塩崎彰久「第三者委員会ガイドラインの弾力的運用の薦め-企業不祥事調査に関する実務上の留意点-」ビジネス法務2010年8月号)。

「ステークホルダーへの説明責任」を重視する見解と「企業価値の維持・防衛」を中心とする見解とでは、委員会の運営、調査の進め方について会社経営陣の意向をどの程度反映させるべきについて、考え方が異なる。その違いは、調査の過程で新たな不祥事が発見された場合の対応、報告書を会社に事前に開示することの是非等についての考え方の違いに表れることとなる。

私は、かねてから、企業経営とは「当該企業が、需要に応え、利潤を確保することをベースに様々な社会の要請にバランス良く応えること」をめざすことであり、「社会的要請に応えること」としてのコンプライアンスは、企業の経営上の意思決定に包まれるものととらえてきた。

その立場からは、第三者委員会の目的と企業経営がめざすところとは基本的に異ならないのであり、前記塩崎見解と同様に、第三者委員会の存在意義は企業価値の維持・防衛を中心に整理すべきだと考えている。

しかし、基本的には、「企業価値の維持・防衛」中心の整理をするとしても、当該企業の事業の公益性の程度、問題の性格、社会全体に与える影響等によっては、日弁連ガイドラインで言うところの「ステークホルダーへの説明責任」を第三者委員会の目的に関して重視すべき場合があることも否定できない。

民需向け製造業のような純粋の民間セクターの事業を行う企業であれば、主なステークホルダーは株主、従業員、商品の需要者である。そこでの経営の基本方針、経営戦略の策定は、全面的に経営者に委ねられ、その結果について経営トップが全責任を負う。商品の品質・価格による市場競争が機能している限りにおいては、基本的には、企業の業績、株主価値によって評価される立場の経営者の責任を重視すべきであり、ステークホルダーに対する説明責任も、経営者がその責任を果たす上で必要な事項一つである。

このような純粋な私企業であれば、企業が不祥事にどのように対処するのか、その不祥事を契機に、どの程度抜本的な改善、改革を行うのかは、基本的には経営上の意思決定に委ねられるべきである。経営者からの委任によって行う第三者委員会をどのような方針で運営するのか、どの範囲の事実を調査対象とするのか、解明した事実関係、原因分析を踏まえて、どこまで抜本的な措置を行うのか、などについても、基本的には経営者の判断を尊重すべきである。

しかし、公益事業の場合には、そのような純粋民間セクターの企業とは大きく異なる面がある。公益事業の多くは、その影響が社会全体、消費者・国民全体に及ぶのであり、それら全体がステークホルダーであるという点で、純粋な私企業とは異なる。また、公益事業の多くは、何らかの競争制限の要因があり、企業経営に対する政府の指導監督、コントロールの余地が大きく、事業活動の在り方や経営方針についての経営者の裁量の範囲も、純粋な民間セクターの企業と比較すると限定される。このような公益事業を営む企業においては、経営者による結果責任は限定的であり、その分、事業活動の内容、それによって生じた結果、問題点等に関して、ステークホルダーである社会全体に対して十分な説明責任を果たすことが求められる。

このような公益的事業において発生した不祥事に関する第三者委員会においては、その目的を単純に「企業価値の維持・防衛」と考えることはできない。日弁連ガイドラインで言うところの「ステークホルダーへの説明責任」を中心に考えるべきであり、企業経営者と第三者委員会との関係についても、第三者委員会の独立性、調査の客観性、公正性を重視する同ガイドラインの趣旨に沿って考えるべきであろう。

これまで私が手掛けてきた第三者委員会の多くは、純粋民間セクターの企業において発生した不祥事に関するものであった(不二家、キリンホールディングス、田辺三菱製薬等)。そこでは、委員会の目的を「企業価値の維持・防衛」ととらえ、不祥事によって失われた企業の信頼回復、或いは、信頼失墜の防止をめざして、経営陣と十分な意思疎通を行い、その基本的な方針を尊重してきた。そこでの重要な役割は、事実を解明し客観的な原因分析を行うことで、その不祥事に対する社会の誤解を解消或いは防止し、私が著書等で「思考停止社会」と表現しているマスコミ報道の歪み等によって企業が不当な社会的批判・非難、バッシングを受けるリスクを最小化することであった。

もちろん、その中においても、事実調査の客観性、真実性、委員会報告書における原因分析の信頼性、再発防止策の実効性については、自分なりにプロとしてのこだわりを持って委員長としての職務を行ってきた。その第三者委員会の活動を通して、当該企業が社会的責任を果たし、社会からの信頼を維持・回復するために貢献してきたとの自負がある。もっとも、委員会の運営、とりわけ当該企業の経営者の方針、意向との調整に関して、日弁連ガイドラインとは若干異なる面があったことも否定できない。最終的に、ステークホルダーに対する責任を負うのが経営者である以上、その意向を基本的に尊重するのは当然と考えてきた。

しかし、例外的に、日弁連ガイドラインと同様に、「ステークホルダーに対する説明責任」を重視した対応をすべき案件もあった。その一つが、2010年7月に報告書を公表した東京医科大学の第三者委員会である(http://www.tokyo-med.ac.jp/news/dai3sya.pdf 参照)。

同医科大学は、度重なる不祥事によって社会からの信頼が大きく傷ついていた。医療の現場で発生した問題であるだけに、それらの不祥事の中には、生体肝移植手術の失敗などのように、人命に直結するもの、患者、家族の人生そのものにも重大な影響を与えるものも含まれていた。

この第三者委員会に関しては、委員会の調査・検討、原因分析を行った上、再発防止策として抜本的な組織改革の提言を行った。当初は、再発防止策の実行段階にも関与する予定であったが、大学の執行部側との意見対立が表面化し、抜本的な改革に強く抵抗する学内者からの誹謗中傷によるトラブルが週刊誌報道にまで発展し、それ以降の業務を、責任を持って実行することを断念せざるを得なくなり、大学側との契約を解消するに至った。

このケースにおいては、医科大学という組織の活動が、まさに、人の命にも関わる公益的なものであるからこそ、第三者委員会及びそれに関連する活動において、その組織の執行部側の意向に単純にしたがうことはできないと考えていた。第三者委員会で策定した再発防止策の趣旨を徹底し、抜本的な組織改革を行うことにこだわり続けた。そこでの対応は、「ステークホルダーに対する説明責任」(この場合のステークホルダーは、患者であり、その患者となりうる市民全体である)を重視する日弁連ガイドラインの考え方に近いものだったと言えよう。

今、私が取り組んでいる九州電力の第三者委員会についても同様のことが言えるであろう。電力会社の事業は、公益事業そのものである。とりわけ、地域独占に守られている日本の電力会社の収益は、供給者の選択の余地のない消費者、国民全体の電気料金の負担によるものであり、ステークホルダーはまさに社会全体である。電力会社の業務に対しては監督官庁の経産省等の政府の関与の程度も大きく、経営の裁量の範囲も限定される。また、総括原価方式の下で、原則として事業利益の確保が保障されており、かかる意味では、経営者が負う結果責任のレベルは、一般の企業と比較すれば低い。

そのような電力会社の一つである九州電力が行っている原子力発電事業に関連して発生した不祥事によって設置されたのが今回の第三者委員会である。

福島原発事故によって、一度事故が発生すれば「制御不能」となってしまう原発の恐ろしさを見せつけられた国民全体にとって、原子力発電事業を担う電力会社、とりわけ原発事業部門が信頼できる組織であるのか否かは重大な関心事であり、今後の日本のエネルギー政策の在り方にも影響を与えかねない重要な問題である。九州電力で発生した今回の不祥事は、まさに組織の信頼性そのものに関わるものであり、真相解明、原因分析は、まさに社会が強く求めているものである。

このような第三者委員会においては、「企業価値の維持・防衛」という観点で、経営者の意向に沿った活動を行うだけではその使命を果たすことはできないのであり、ステークホルダーである社会全体への説明責任を果たすという観点から、依頼者たる企業からの独立性を確保し、客観性、中立性を重視する日弁連ガイドラインの考え方に沿って第三者委員会の活動を行うべきであろう。また、同ガイドラインでは言及されていないが、調査対象の事業の性格、社会的重要性、それが原発を日々稼働させている組織に関わる問題であることを考慮すれば、第三者委員会の調査の過程において重大な事実が明らかになった場合においては適宜適切な情報開示を行うことも必要であろう。

今回の九州電力の問題に関しては、佐賀県知事と九電幹部との会談での知事発言が九電側の説明番組への投稿要請に与えた影響、プルサーマル等の原発説明会における動員、発言要請の有無等に加え、原発事業本部の組織的な証拠書類の破棄の事実関係及び動機・背景など、委員会設置当初の会社側の想定を超えた事項が重要な調査対象となっている。それらに関する真相を徹底究明し、その背景にどのような組織的な問題があるのかを明らかにし、実効性のある再発防止策、信頼回復策を提言することが、我々第三者委員会及び弁護士調査チームに与えられた社会的使命である。書籍表紙画像

一方で、九州電力という会社にとっても、第三者委員会の調査によって膿を出し切って社会からの信頼を回復することが、企業として再生するのための最良の方策であり、それが、今回の問題の表面化以降、不安を抱えながらも、日夜、電力の安定供給のための業務に取り組んでいる多くの社員を救うことにもつながるのである。

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