法科大学院に係る政策評価について

【平成23年7月14日記者レク概要より抜粋】

「法曹人口の拡大及び法曹養成制度の改革に関する政策評価」ですが、今、行政評価局で行っている政策評価の一つです。昨年の夏から年末にかけて、この政策評価をどのように行っていくのかを検討する研究会を開催して、その成果を報告書という形で年末に公表しました。その議論と検討も踏まえて、今、行政評価局で政策評価のための調査を行っているところです。

この法曹養成の問題、法科大学院の問題については、マスコミ等でも問題にされていますので、どういったことが問題になっているかということも大体ご存知だと思います。

一言で言うと、大幅に法曹資格者を増やして司法サービスをもっと身近なものにして、市民にとって使いやすいものにしていこうという理念が掲げられて、司法制度改革の中の一つの大きな目玉として法曹資格者の大幅な増員、そしてそのための法科大学院の設置ということが政府の一つの政策として行われてきたわけですが、これがはっきり言って大変な状況になっている。政策面として大きな失敗になっているのではないかと言わざるを得ない状況になっているということです。

そこで、いったいこの一連の政策がどういう目的で、どういう理念の下に行われ、今、どういう状況にあるのか、どういう問題があるのか、というようなことを、調査・検討しようということで、政策評価の対象にしたということです。

この一連の政策というのは、司法を身近なものにしていくためにもっともっと法曹資格者を増やさなければいけない。法曹資格者が少なすぎるから、司法サービスが市民の使い勝手の良いものにならない、司法に対するニーズが元々あるので、法曹資格者を増やせば、そのニーズと供給、サプライのほうがマッチするという考え方がベースにあったのだろうと思います。大きな問題は、法曹資格者が今、もう既に相当な数、世の中に供給されて、数年前と比べると弁護士の数も急増しているわけですが、その司法に対するニーズ、弁護士に対するニーズというものがそれに見合って増えてきているとは思えない、ということです。最終的なニーズのところが、司法制度改革が前提にしていたところと大きく乖離してしまっているわけです。数が増えれば、当然それに伴って需要が掘り起こされていって、需給関係がちょうどうまくバランスするということになっているかというと、全然そうはなっていない。

そして、結局、そこが最終的なボトルネックにもなっているわけですから、これはなかなかそういうふうに関係者のほうは明確には答えませんけれども、司法試験合格者が当初言われていたような数になっていないわけです。

当初は法科大学院修了者に対する、いわゆる新司法試験の合格者を年間3000人にすると言われていたのですが、今のところ2000人で頭打ちの状態になっています。新司法試験では法科大学院修了者の合格率が7割程度になるということが前提とされるはずだったのですが、実際には、その前提を大幅に上回るような数の法科大学院が設置され、定員も大幅にオーバーした状況になっていたわけです。そこへきて、合格者が3000人を大きく下回ることになると、合格率がどんどん低下していって、法科大学院は出たけれども法曹資格が取れないという人をたくさん生みだしてしまう。

確かに今の2000人が本当にレベルとして昔の合格者と同等なのか、質が落ちているのではないかという意見もあるし、私も、若干、その懸念は持っています。しかしそれは制度の失敗が招いた面もあるわけです。

最初から7割合格できるということで始まった法科大学院が、現在、25%の合格率(平成22年)になっている。そういう状況になるということは、法科大学院設置当初から予測されていたので、そんなリスクをとってまで、なかなか法科大学院に入らない。どんどん志願者が減ってくるから、当然、そこに入ってくる人たちの質の低下も懸念される。だから結果的に合格者を増やせないということになる。どんどん悪循環になっていきます。

一方で、法科大学院を修了して司法試験に受かって、司法研修所を出て弁護士資格を取っても、弁護士に対する需要が高まらないので、弁護士の就職難が問題になり、弁護士を開業してもなかなか仕事がない、ワーキングプア状態の弁護士が急増していると言われています。まさに、いろいろなところでこの司法制度改革の当初想定していなかったような大変な厳しい状況になっていることを、今、皆が認めざるを得ない状況になっているわけです。

結局、問題の根本は司法の在り方をもっと抜本的に見直されないといけなかった。法曹資格者の能力や提供できるサービスの内容とか、そういったことを考え直さないといけなかったのに、旧来の司法の世界のまま、旧来の法曹資格者のスキルのまま数だけ増やしたって、世の中に汎用的な商品として出ていけるわけがない。当然の結果になっているのだと、私は思います。

こういった状況の下で、一連の法曹養成制度、法科大学院の設置という行政がどういう考え方で行われたのか、現状はどうなのかということを、政策評価の手法で調査検討していこうということで、こういう政策評価が企画され、今、行われているわけです。

私は、総務省の顧問として、この政策評価にはずっとかかわってきました。
もともと司法の世界に身を置く者としても、これは本当にこの深刻な状況に対して国として現状を把握し、そしてこういうことになった原因を明らかにして、反省すべき点は反省し、今後、どういう方向でこういう問題に取り組んでいくべきかということを真剣に考えないといけないと思っていますので、総務省でやれることがあれば、できる限りの取り組みをするというのは当たり前だと思います。今の行政に関する問題の中で、非常に大きな問題、深刻な問題の一つでもあると思います。

ということで、政策評価としてのテーマについての調査検討は現在行われている最中なのですが、この政策評価に対して、法科大学院協会の方から反発する動きがあるわけです。先ほど申し上げた研究会の報告書を公表した段階で、一般に意見を求めたところ、法科大学院協会からも意見が出されています。これに関しては、6月15日付で法科大学院協会のホームページでも、「法曹人口の拡大及び法曹養成制度の改革に関する政策評価に関する意見」が公表されていますので、これもお配りしています。これを私も読んでみたのですが、率直に言って、この協会の人達は一体何を考えておられるのか、といささか呆れて

いるというのが、率直なところです。今回の政策評価は、今、お話ししたように、今の日本の社会にとって非常に重要な問題である法曹養成、司法を担う人たちの養成の在り方、それについての行政をどうしていくのか、それについて問題があるのだったら、その問題を明らかにして改善をする、という当たり前のことをやっているだけのことです。しかも実際にそういったことに関して研究会を開いて報告書を公表したところ、たくさんの方々が意見を寄せてくれて、非常に高い関心を持たれているのです。多くの人が、今回の政策評価を肯定的に受け止め、期待してくれています。

やはり、今の法科大学院制度、法曹養成制度、そして試験の在り方には、いろいろな問題がある。もっとこういう観点から徹底して調べてほしいということを、法科大学院に今在学している人や修了した人、法科大学院での教育に携わっている人など、実情をよく知っている人からのたくさん意見が寄せられている。まさに本当にこういう行政を巡る問題について、こういったことに関係している人たちが、この法曹養成と法科大学院をめぐる行政というものに重大な問題意識を持って見ているわけです。

ところが当の法科大学院の側に、おそらく一部だと思うのですが、そこに、そもそもこういう調査をすることがおかしい、というような考え方があるようです。

この問題に関しては、そもそも法曹の養成に関するフォーラムというのが、本年5月に設置され、検討が開始されたのだから、そちらのほう任せておけばいいのだと、なぜ総務省などがしゃしゃり出てくるのだということが一つ、言いたいようです。それから、考えられないことに「学問の自由」に対する侵害だというような、予想もしていなかったような、言葉が出てきています。

要は素人が口を出すべきことではないということが言いたいようです。法曹養成などという問題は、専門的な領域の問題であって、それを専門的なこともわからない、総務省の行政評価局の役人ごときが口を出すような問題ではないということが言いたいようです。

私は日本の司法の問題について、今までの司法は、日本の社会では周辺領域でしか機能していなかった。そういう存在であったということを、今まで、コンプライアンスの問題に関連して言ってきました。日常的に発生する問題ではなくて、やや特殊な問題、特異な問題についての後始末をつけるという方向でしか機能してこなかった。社会の中心部で日常的に起きる問題を解決するという機能をあまり果たしてこなかった。それが「二割司法」だとか、「訴訟沙汰」というような言葉が当たり前のように使われることにも繋がっているわけです。

そういうような現状を直していかなければいけない。司法をもっと社会の中心部で機能するようなものにしていかないといけないというのが、司法制度改革の目的のはずだし、そのためには従来、社会の周辺部に閉じこもってきた司法の世界自体を改めていって、社会に対して開かれたものにしていかなければいけない。その世界を変えていかないといけないということだと思います。

ところが今回の法科大学院協会の反応を見てもわかるように、そういう世界の人たちは、今までの司法、自分たちの領域について変えられることを、最初から拒もうとしているとしか思えないのです。

別に総務省がどうのこうのということではなくて、世の中のいろいろなあらゆる目をちゃんと受け入れて、自分たちも変わるべきところは変わっていこう、今までやってきたことに問題があるのだったら、率直に反省してみよう、という気持ちに多少なりともなってくれる人たちなのであったら、こんな反発は出てくるわけがないと思うのです。まさに組織の閉鎖性……組織というよりもその司法の世界全体の閉鎖性がこういった動きに繋がっているのではないか。

今、法科大学院に在学している人、あるいはもう既に法科大学院を修了した人たち、そういう多くの若者たちがこの世界を志した。しかし、実際には、現実は、当初の司法制度改革がめざしていた方向には全然向いていない。そういう状況の中で多くの人が悩み、大変な深刻な状況に置かれている人もいるということに対して、誰が反省するのか、誰が責任を負うのかということを考えたときに、まずは、その閉鎖的自己完結的な司法の世界から全く抜け出せていない、その中に頑なに閉じこもろうとしている人たちが意識を変えてもらわなければならないと思うのです。やはりこういう閉鎖的な組織の問題を、この際、もっともっと世の中に開かれたものに改めていかないといけないということなのではないかと思います。

法科大学院協会から会員校に対して出された文書に「法科大学院制度をはじめとする現在の法曹養成制度や趣旨を否定するための調査が実施されている、と受け取られかねない内容になっているのではないか」というようなことが書いてあります。要するに、現在まで行われてきた司法制度改革に重大な問題があるのに、それを否定する方向での調査をすること自体がけしからんと言っているようなのです。司法制度改革を引っ張ってきた人たちからすると、自分たちがやってきたことを外から批判されることは我慢がならないと言っているとしか思えないのです。

また、そこで学問の自由という言葉が出てきたことには二重に驚きを感じざるを得なかったのですが、大学というのは研究の場であると同時に教育の場です。そして教育ということに対しては、一応、最低限こういうことをやらなければいけないとか、内容などに関しての制限や制約、規制を重ねざる得ない点もあります、教育の質の確保のために。その程度はいろいろだと思います。教育についての自由度も必要だけれど、質を一定程度確保することも必要です。

では、今、法科大学院の教育がどういう方向に向かっているかといったら、完全に自由という方向ではなくて、枠をはめられてカリキュラムの制約の下で個々の教官の自由度がほとんどない方向に向けられているとしか思えないのです。法科大学院ができたときよりもはるかにそういう制約、制限が強められている。そういった状況に置いているのは何かというと、これも制度自体に非常に根本的な問題があるからなのです。司法試験に合格させないといけないということで、法科大学院のほうは司法試験受験対策に走ってしまう。しかしそれだけだと受験予備校みたいになってしまうので、そこで教育内容に相当介入することが、文科省のほうで当然、出てきます。そういったことの中で、自由度が非常に低い方向に向かっているのが現実なのに、こうやって文科省や法科大学院という世界の外から批判される動きに対して、突然、「学問の自由」などという言葉が出てくる。これは本当に内部の勝手な理屈だと思うのです。

こういうような雑音みたいなものにめげず、総務省行政評価局としては粛々と調査を進めていくしかないわけですが、こういった動きが、法律に基づき適正な手続きを経て行われている行政評価、政策評価に対する妨害や調査に協力するなというようなことを公然と言うようなことがあるとすると、これは由々しき事態で、放置できない問題になっていくのではないかということを、私は非常に懸念しています。今後、本当にこの政策評価をきちんと実施して、我々なりに検討の結果を公表し、必要な勧告を行えるようなところに持っていかないといけないと思います。ぜひ、各法科大学院において、しっかり協力してもらいたいと思っています。

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弁護士
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