福島原発事故と東京電力のコンプライアンス

【第118回定例記者レク概要より抜粋 その3】

3番目が、福島の原発事故に関して、私のもともとの専門であります、企業のコンプライアンスという観点から東京電力の対応をどう見るのかという点です。今回の大震災、大津波、そして原発事故に対して国全体の対応にどういう問題があるかどうか。原発事故に対する対応をどういう観点から考えていったらいいかということ、これはこの場で前にもお話をしました。今日はとくに企業のコンプライアンスという観点から東京電力の対応について考えてみたいと思います。はっきり申し上げて、私がこれまで企業のコンプライアンスを考える上で前提にしてきたことが、今回の東電の対応を見ていると、大きく崩れているというか、私のコンプライアンスの常識からはもう完全にかけ離れたことが起きている。そういう意味で、いまの東京電力の対応を見ていると、私の想定外だったと言わざるを得ません。

そのもともとの背景に、この原発問題をめぐって絶対安全という言葉が自己目的化してしまったことで、絶対安全を守る、絶対安全という確信を守るということに偏った原発に対する政策とか企業の対応が行なわれてきたことに問題があったというのが根本的な問題なのですが、そういう根本問題を置いておいて、今回起きた、この原発事故という重大な災害、そのクライシスに対して東京電力という組織がどういうポリシーで、どういう取り組みをしているのか。そこの中心には誰がいて、誰が意志決定をしているのか、というような、コンプライアンス、クライシスマネジメントにおいてもっとも重要なことを考えようとしたときに、今回の東京電力がやっていることはまったくわけがわからないというのが私の率直な印象です。

とりわけ、私が本当にあきれ果てたのは、それはどういう体調、どういう病状であったのかは詳しくはわかりませんけども、これほど企業の行動が世の中に重大な影響を与える、企業のクライシスマネジメントのまさに最たる状況において、社長が体調不良で仕事ができないとか、入院しているとか、出て来ないというのはいったいどういうことなのか。

普通に考えたら、こういう状況において、まさにその企業の総責任者である社長はどんな無様な状況になっても、その国民の前に出て、自分の責任を明らかにする。体調がいいとか悪いとかというようなレベルの問題ではないはずです。

ところが、1カ月にわたってほとんど人前に現れず、この前、福島の被災地に突然現れて、福島県知事に名刺だけ置いていって、その後ぶら下がりで発言したこととか、その後、会見で清水社長がコメントしたことをネットのニュースで見ますと、こういうことを言っているようです。

「自身の経営責任については事故の収拾に全力で取組み、被災者の支援に全力を尽くすのが私の最大の責務」と。そういうふうに考えているのであれば、今までいったい何をしていたのかということです。そして、今までそういうような1カ月、まともに人前にも出ないで課長だの下っ端の連中にばかり会見で喋らせて、自分はどこにいたのかわからないというような対応をした後に、「事故の収拾に全力で取組み、被災者の支援に全力を尽くすことが私の最大の責務だ」などということをしゃあしゃあと言える神経があれば、おそらく私はそんな体調がちょっとしたことで崩れるとか、精神的に不安定になるなどということはないのではないか。十分立派に対応していけるのではないかと思います。とにかくこういう社長の行動、社長の発言自体がコンプライアンスという観点から考えて、まったく私の想定を超えたものと言わざるを得ません。

東京電力に関して、法的責任がこれからどうなっていくのか、社会的責任がどうなっていくのかというのはものすごく難しい問題です。そういう責任の所在がまったくわからない、非常に不確定、不安定状況にある東京電力という会社が、いまなおこの原発事故について、形式上は一応対応の主体になっているわけです。そのこと自体が、非常に問題だと思います。

原子力損害賠償法の解釈だけで結論が出る問題ではありませんが、少なくともこの東京電力という電力会社の施設である原子力発電所から何兆円、何十兆円という莫大な損害が発生していることは間違いないわけです。最終的にそれを東京電力が払えないときに、国が相当程度負担することになるかもしれません。しかし、常識的に考えると、まず東京電力はその損害賠償債務によって事実上破綻していると考えるのが自然だと思います。であるとすれば、その東京電力がいま手元におカネがあるからと言って、そんなおカネを勝手に使っていいのか。ましてや、真偽のほどは知りませんけれども、テレビで、東京電力のお詫びだとか、お知らせだとか、広告みたいなものが出ていますけど、あれはタダでやっているのではないと思います。膨大な金額の広告料を払っていると思うのですが、そういうお金の使い方をすることが本当に許されるのかということです。こういう損害賠償債務で事実上破綻している会社がそんなことを決めていいのか。私はこの東京電力の今後を考えたら、早急にまず国家管理に移して、国家管理というか、管財人を選任するのでも何でもいいです。東京電力が主体となって決めるということをやめさせなければならない。もちろん東京電力にもいろんな意見は求めないといけないかもしれないけれども、最終的な責任は国が負うということでなければ、この事態に対する適切な対応はできるわけがないのではないかと思います。

そして、そのことはもう1つの問題である、東京電力の株式を未だに上場を維持して、東京証券取引所での売買が続けられていると。このことも私は大問題ではないかと思います。私は検事を退職したときの退職金で東京電力株を1000株買っていて、今でもその1000株は保有しています。この事故が起きたときに、私は自分なりに今までいろんな多くの会社のコンプライアンスについて指導する立場でもあったし、講演も多くの電力会社でやったし、そのなかで東京電力という会社がこんな問題を起こした以上、株主としての責任でもあると思っています。私は今回の東京電力株は当然、紙くずになるべきだと思いますし、紙くずになるまで売る気はまったくありません。そういう株主の立場でもあるので、余計に率直に言わせてもらいますけども、直ちに取引は停止すべきです。上場は廃止すべきだと思います。

なぜかというと、いまいったい東京電力株というのはどういう材料で動いているのか。何を根拠に売買の判断をしているのか。先ほども言ったように、事実上この会社は破綻しているのです。破綻してて、まともに損害賠償債務を負えば、当然債務超過です。株価なんかつくわけがないのです。ところが、ひょっとするとそれは政府の方針如何では東京電力は生き残るのではないか。ゾンビみたいなものですね。そういうような期待があったり、いやいやそんな甘いものではない。これは当然紙くずになるのだという弱気の見方とか。それが交錯して、いまのような株価が形成されている。そんなことについて確たる予測ができる人間はいないはずだし、ほとんど単なる憶測だけで売買している。賭博ですね。それも半分いかさま賭博みたいなものです。こんないかさま賭博のようなものを証券取引所がその売買を許しているということ自体が、私は非常に問題だと思います。

証券市場の公正ということに関して、私もコンプライアンスの観点から、企業法という観点から今までもいろんな著書でも書いてきました。最近出した『組織の思考が止るとき』の中でも証券市場の公正のことはかなり詳しく書いています。昭和20年代、30年代のような日本の証券市場は実質上、賭博場でした。企業の価値だとか、企業の内容だとか、そんなことでなくて、思惑だけで動いている世界だった。それは経済的に特別その企業の資金調達に関して大きな役割を果しているのではなくて、企業の資金調達は実質上、間接金融、銀行からの融資で行なわれていて、証券市場というのは結局株好き、バクチ好きの人たちが集まっているだけの存在だった。そういう証券市場を前提に考えるのだったら、

現在の東京電力株の状況もそれはその通りのものです。しかし、少なくともいまの日本の証券市場、少なくとも21世紀に入ってからの証券市場というものはそういうものであっていいという考え方ではけっしてなかったはずです。やはりその企業の価値について、企業の内容がタイムリーに、公正にディスクローズされ、そして証券市場による売買が公正に行なわれる。そして、多くの国民が証券市場を信頼して市場に参加できると。こういうような証券市場を育てていくことによって、証券市場を通じての直接金融の機能を高めていこうという考え方で証券市場が運用され、金融商品取引法もそういう目的で法改正が行なわれ、運用されてきたはずです。そういうことからすると、まさにいまのような状況で東京電力の株式が、ほとんど思惑だけの博打のような売買が行なわれるというのは、私はまさに法の根本的な目的に反するものだと思います。

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カテゴリー: コンプライアンス問題, 記者レク, 原発事故 パーマリンク

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