「刑事裁判の意味」が問われる「夢の街」株相場操縦事件判決

「夢の街創造委員会」(以下、「夢の街」)の株式をめぐる相場操縦事件で起訴された花蜜伸行氏に対する判決が、3月28日に東京地裁で言い渡される。

当ブログ【「録音録画停止後の脅し」を覆い隠そうとする検察と、加担する裁判所】で述べた異常な訴訟指揮で審理が終結した事件である。弁護人の弁論で、取調べの録音録画停止後の検察官の発言の問題等を指摘された検察官が被告人調書の請求を撤回して供述による主観面の立証を断念したことなど、検察官立証の不十分さを指摘したのに対して、検察官が「証拠に基づかない弁論」などと異議を申し立てて不当な言いがかりを付け、裁判長が、その異議をあっさりと認めて弁護人の弁論の削除を命じたのである。

家令和典裁判長は、被告人・弁護人が全面無罪を主張している事件であるのに、なりふり構わず有罪判決に邁進する姿勢を示した。証人尋問でも、被告人質問でも、検察官が述べる「異議」を認めて弁護人の質問を制限する訴訟指揮にも、その姿勢は顕著に表れていた。

このような裁判長の下す判決なので、無罪となる可能性は低く、勝負は控訴審に持ち越されることになるだろうと予測はしている。

しかし、本当に、それで良いのだろうか。

判決に先立って、花蜜氏が行った「夢の街」株売買の経緯や内容を概説しておきたい。花蜜氏が行ったことは、決して相場操縦で起訴されるような「刑事事件」ではなかった。それは、経済の常識をわきまえた読者であれば容易に理解して頂けるであろう。

花蜜氏の「夢の街株取得計画」の概要

「夢の街」社の創業者の花蜜氏は、同社が上場するまでは社長を務めていたが、その後、同社の経営から離れ、同社の社長は、花蜜氏が招聘した中村利江氏が務めていた。2013年3月に、花蜜氏が特別顧問という形で再び経営に関わるようになった際、「経営に関与するのであれば、中村社長の持株に対抗できるだけの15%程度の株式を取得したい」と考えて、同社の株式の買い付けを始めた。

そこで、花蜜氏が夢の街株取得の計画のためにとった方法は、以下のようなものだった。

①花蜜氏は、手持ちの資金や知人からの借金を原資に株の買い付けを始めたが、15%もの株式を取得するためには、信用取引の買い建玉を維持して、それを増やしていくしかなかった。そこで、購入時より値上がりして利益が出ている信用取引の決済の売り注文に、新たな信用の買い注文を対当させることによって利益を現実化させるという「益出しクロス」を行い、それによって得た値上がり分の資金を、更に買い建てる資金に回すという方法をとった。

②夢の街株の取得の目的は、経営方針をめぐって中村社長と対立した時に、対抗できるだけの株数を保有することだったので、中村社長に知られないように買い進めることが必要だった。そこで、知人二人に「名義貸し」を依頼した。違法行為を行うために他人名義にしたわけではなかった。

③クロス取引により出た利益を新たな買い建て資金に回していくには、前提として、夢の街株の株価が、「益出し」が可能な程度に少しずつでも上がり続けていなければならなかった。

④しかし、この点については、花蜜氏は自信があった。夢の街を創業して上場企業に育てた同氏は、夢の街株が市場で過少評価されていると考えており、事業提携やM&Aを積極的に提案し、それが市場に評価されれば、株価が上昇傾向をたどることは確実だと考えていた。そして、自身が同株を買い進めることで一層株価の上昇を加速させ、時価総額を拡大させることを目論んでいた。

⑤花蜜氏は、最終的には、時価総額250億円の企業にするため、事業をさらに多角的に展開していこうと考えていた。そのために、夢の街株をどんどん買い進めていき、それによって株価を上昇させていこうと考えていた。一般の投資家であれば、「できるだけ安く買って、できるだけ高く売る」ということを考えるが、花蜜氏にとっては、「売る」ということは頭になく、株価は上がれば上がるほど良いと思っていたので、自分の買い注文で少しでも株価が上がることをめざしていた。基本的には、前日の終値近辺にまとまった買い注文を出して、買い付けるという方法だったが、売り注文が薄い時などには、一気に買い上がって、株価を上昇させることもあった。

⑥一方、夢の街株の株価が下落して、買い建て単価を大幅に下回ってしまうと追証が発生し、それを払えない事態になれば、買い建てている株式は強制売却され、花蜜氏の計画は破綻することになってしまう。そうした事態を防ぐために、花蜜氏は、自身が夢の街株の買い注文を発注することによって、株価が下落することを防止する必要があった。そこで、現在値を下回る水準にまとまった買い注文を入れて、株価がその水準を下回ることを防止しようとしていた。

夢の街株売買の結末と刑事事件化

このような花蜜氏の夢の街株の取得計画は、順調に進み、株価も、当初500円程度だったのが、2014年3月には2800円を超え、その後、1:2の株式分割が行われた後も、1200円前後で推移していた。

ところが、その後、まとまった売り注文が続々と出されるようになった。花蜜氏は、知人から借入れするなどして資金を追加し、夢の街株の防戦買いを行ったが、買っても買っても株価は上がらない。逆に下落し、持株の大半に追証が発生する水準を下回りそうな状況になってきた。

終値が、追証が発生する価格以下に下がらないように株価を引き上げる「買い上がり買付け」「下値支え注文」を行って何とか株価を維持していた花蜜氏に、「悪魔のささやき」がやってきた。知人を通じて、外資系ファンドから「夢の街株を安定保有するので、合計20万株譲ってくれないか」という申入れがあったのだ。花蜜氏は、20万株引き取って安定保有してもらえれば、得た資金で夢の街株を買い続けることができ、再び大きく上昇させることができると考えて、その話に乗ることにした。

譲渡の期日は、1回目が5月30日、2回目が6月2日と定められ、5月30日の昼頃、引け後のトストネットで、終値の7%引きの価格で10万株を譲渡する契約書に署名した。

すると、その日の大引けが近づいた午後2時40分頃から、津波のような猛烈な売り注文が襲ってきた。花蜜氏の必死の防戦買いも、あっという間に吹き飛ばされ、終値が大幅に下落、2億円を超える追証が発生した。花蜜氏には何が起きたのか全くわからなかった。大幅に下落した終値の7%引きの価格で10万株譲渡した代金が約1億円入ることになるが、それでは賄えない程の追証の金額だった。

追証資金を確保しようと、6月2日の10万株の譲渡も、予定どおり契約書に署名した。すると、また、猛烈な売り注文が襲ってきた。株価を回復させようとまたもや必死に防戦買いしたが、全く歯が立たず、その日の終値はさらに大幅に下落。その翌日に、花蜜氏の持株218万株は、すべて強制売却され、夢の街株は大暴落となった。

夢の街株をすべて失った上に、約10億円の借金を抱えることになった花蜜氏が、債権者に追われているところに、「死馬に鞭打つ」ように襲ってきたのが、2015年2月に開始された証券取引等監視委員会(以下、「監視委員会」)の特別調査部の強制調査だった。容疑は、夢の街株の売買における「相場操縦」だった。

しかも、その取調べの中で、花蜜氏は調査官から驚愕の事実を知らされた。

5月30日、6月2日の株式売買注文に関する資料を見せられ、

『売り崩し』に使われたのは、あなたの株だったんですよ

と言われたのである。花蜜氏から合計20万株の譲渡を受けた外資系ファンドが、契約書締結の直後から大量の空売りをかけ、譲渡価格の算定基準となる終値を下落させていたのである。

膨大な借金を抱えた上に、刑事処罰まで現実のものとなった花蜜氏には、立ち上がる気力すらなく、監視委員会の取調べでは、言いたいこともほとんど言えないまま、調査官が作文した調書に署名した。

そして、1年3ヶ月続いた調査の後で、東京地検に告発された。告発されたのは、花蜜氏だけではなく、株式取引の名義人になってくれていた知人のTさんも一緒だった。

花蜜氏の夢の街株売買の特異性と破綻の原因

ここまでが、花蜜氏が、相場操縦事件で告発されるに至った経過だ。

花蜜氏の夢の街株取得計画は、僅かな資金を元に、信用取引で上場会社の15%もの株式を保有しようとするもので、十分な資金もなく、上場企業の株式をまとまった数量取得しようとするやり方は、一般的な感覚からは、若干無理があるようにも思える。

しかし、それも「出前館」という新たな事業を営む同社の創業・上場を成し遂げた花蜜氏であるからこその発想であり、しかも、前記④の通り、夢の街株が過少評価されていること、自らが経営に参画することで業績を向上させていくことを確信していた花蜜氏にとっては、信用取引で15%の持株を取得することも、それと併せて、株価を一層上昇させ、時価総額を大きくしていこうとすることも、それほど荒唐無稽なものではなかった。

花蜜氏は、自分の買い注文で株価を引き上げ、「益出しクロス」をしながら資金を回転させていこうと考えただけで、一般的な相場操縦のように、注文の出し方や株価の動きで、株価が上昇するように見せかけて、他の投資家を引きずり込み、自分は売り抜けて儲けようなどという気持ちは全くなかった。

そういう花蜜氏の株式取得計画が破たんに追い込まれたのは、「安定保有する」と言って花蜜氏から20万株を買い受けた外国ファンドが、契約直後から「空売り」をかけて夢の街株を売り崩すという予想もしない行動に出たためだった。

花蜜氏は、買い進めた夢の街株すべてを失い、約10億円の負債を抱えることになった。まさに、株式市場という「相場」での「敗者」になった。しかし、それに加えて、相場操縦という「証券犯罪」で断罪されるような「犯罪者」ではないことは、既に述べた株式売買の経緯と内容から明らかであろう。

なぜ花蜜氏の株式売買は刑事事件化したのか

このような花蜜氏の夢の街株の売買が、なぜ、相場操縦事件として刑事事件化してしまったのか。

それは、第1に、監視委員会の「誤解」である。誤解がわかっても、一度、刑事事件として調査に着手したら「引き返すことができない」という組織の体質にも根本的な問題がある。

第2に、告発を受けた検察がやるべきだったことは、事件の実体を見極め、それが「証券犯罪」なのかどうかを判断することであったが、検察はその判断をせず、長時間にわたる取調べで、「相場操縦の犯罪」であるかのように見える供述調書を作り上げるという、昔ながらの「調書中心主義」の捜査を行った。その供述調書を作るために、検察は、【前記ブログ】でも詳述した「録音録画停止後に、逮捕や共犯者の起訴を示唆する」という手段まで使ったのだ。

そして、第3に、裁判所は、証人尋問や被告人質問等の審理を行い、不当極まりない調査・捜査の過程や、事件が凡そ証券犯罪ではないことが明らかになったが、それらに全く関心を示さず、「調査・捜査の結果を無視して、売買の外形的事実という監視委員会の調査以前からわかっていた事実だけで有罪だと断じる検察官の論告」しか聞きたくないという姿勢を、傍聴席を埋め尽くした傍聴人の前で、露わにしたのである。

第2、第3の問題については、既に【「録音録画停止後の脅し」を覆い隠そうとする検察と、加担する裁判所】で述べた。

ここでは第1の問題、監視委員会が、なぜ、このような花蜜氏の株式売買を、相場操縦の刑事事件として調査の対象にしたのか、そこにどのような誤解があったのかを述べておきたい。

「組織ぐるみの犯罪」と誤認して調査に着手した監視委員会

 監視委員会の中でも、刑事事件としての告発をめざす調査を担当する「特別調査課」が、花蜜氏の強制調査に着手した最大の理由は、一連の売買を、夢の街という上場会社の「企業ぐるみの犯罪」ととらえたことにある。

夢の街の創業者である花蜜氏が、顧問として経営に再び関わるようになったことは公表されていた。このような場合、いずれ取締役に復帰することを予定していることが多い。監視委員会は、夢の街株が複数の名義を使って大量に買い集められ、しかも、その手口に、かなり露骨に株価を上昇させようとする意図が窺われることを把握し、その株式取引の名義人が花蜜氏に関係する人物であることをつきとめた段階で、夢の街の経営に復帰する予定の花蜜氏が、現社長の中村氏と意思を通じて、夢の街株を買い進めているものと考えたようだ。実際には、中村氏は花蜜氏の株式取得とは全く無関係だった。たまたま、同じ時期に、夢の街社が自社株買いをしていたことも、監視委員会が「組織的な買い集め」の疑いを持つことにつながったようだ。花蜜氏の銀行口座にはまとまった資産もなかったので、株式取得資金は、何らかの形で夢の街の会社側から出ているものと推測したのであろう。監視委員会の特別調査部は、そのような想定の下、組織的な相場操縦事件として、強制調査に着手したものと考えられる。

しかし、実は、花蜜氏は、中村社長とは全く関係なく、むしろ、中村社長にわからないように、他人名義で夢の街株を買い進めていたのだ。しかも、花蜜氏には、株式取得資金は僅かしかなかったが、上記①のとおり「益出しクロス」で得た実現益を新たな株式取得資金に回すという方法をとっていて、資金は会社からは全く出ていなかった。

監視委員会は、事件の見立てを完全に誤っていたのである。

花蜜氏の話によると、監視委員会での当初の取調べは、ほとんどが「会社ぐるみの株買い集め」の疑いに向けられていて、それが全くの見込み違いで、実は花蜜氏の個人的な買い集めだとわかった段階で、しばらく調査が中断したとのことだ。

「企業ぐるみの犯罪」という見立ては、完全に外れてしまったが、刑事告発をめざして強制調査に入った以上、「後には引けない」ということなのか、特別調査部は、花蜜氏の夢の街株売買を、個人の相場操縦の犯罪として構成しようとした。

そこで、問題になったのが、花蜜氏に、「違法な相場操縦」の主観的要件である「売買を誘引する目的」があるか否かであった。

【前記ブログ記事】でも述べたように、最高裁判例で、「他の投資者に誤認させて売買取引に誘い込む目的」がなければ相場操縦の犯罪は成立しないとされている。

既に述べた花蜜氏の夢の街株の取得計画からすると、自分が株を買うことで株価を上げたいと言う気持ちがあったことは確かだが、他人を巻き込もうとは思っておらず、ましてや、「見せかけの注文」で他人に誤認させるつもりは全くなかった。

「対当売買」を誤解した監視委員会

監視委員会での取調べで、花蜜氏が売買の経緯や目的を説明し、「他の投資者を誤認させて売買取引に誘い込む目的」などなかったと訴えても、理解してもらえなかった。

監視委員会側が注目したのは、「仮装売買」だった。

前記①で述べたように、花蜜氏の夢の街株の取得は、信用取引によるものだった。買い建玉に評価益ができると、その信用取引の決済のための売り注文に、新たな買い注文をぶつけて売買を成立させるという「対当売買」を行って、買い建玉の値上がり分の実現益を得て、それを新たな株式買付け資金に充てていた。買いも売りも花蜜氏が出している注文なので、表面的には「仮装売買」のように見えるが、実現益を出すための「益出しクロス」だった。

ところが、監視委員会側は、花蜜氏の「対当売買」を、誘引目的で行われた「仮装売買」ととらえたのだ。

花蜜氏は、夢の街株の売買を始めた2013年4月頃から翌2014年1月頃までの株価が順調に上昇していた時期には「対当売買」を行っていたが、その後、株価が下落し、追証が発生しないように必死に買い支えていた時期には、「対当売買」を行っていない。

花蜜氏にとっては、まとまった売り注文が続々と出され、株価が下落を始めた後、追証が発生しないよう、防戦買いを行っていた時期が、ある意味では、最も株価を上げたかった時期である。もし、「対当売買を行って、売買が活発に行われているように見せかけることで他の投資者を誘引して株価を上げることができる」と考えていたのであれば、その時期こそ「対当売買」を多用していたはずだ。しかし、実際には、この時期には対当売買はほとんど行っていない。

それは、株価が下落していたため評価益が出ていなかったからだ。花蜜氏にとって「対当売買」を行う目的は「益出し」だったので、利益が出ていない以上、行う必要がなかったのである。

このことは、「対当売買」が、「売買が活発に行われているように見せかける目的で行われていなかったこと」を端的に示すものだった。

ところが、監視委員会は、花蜜氏の「対当売買」を、相場操縦の認定の決め手とした。花蜜氏が、「売買が活発に行われているように見せかける目的」で「仮想売買」を行ったと認定したのだ。

そして、頻繁に「対当売買」が行われている2013年7月から2014年1月までの期間は「変動操作取引」と構成し、ほとんど対当売買を行っていない2014年4月から5月にかけての取引は「安定操作取引」と構成して、花蜜氏を告発したのである。

「変動操作取引」というのは、「売買を誘引する目的」「売買が活発に行われているように見せかける目的」があって初めて成立する犯罪であるが、「安定操作取引」というのは、「相場を安定させる目的」で株価を固定させたというだけで成立する。

【前回ブログ記事】でも述べたように、起訴事実のうち第1事実が「変動操作取引」、第2事実が「安定操作取引」と構成されているが、これは、監視委員会の告発事実を、検察がそのまま起訴したということだ。

しかし、そもそも花蜜氏の「対当売買」は、「益出しクロス」であり、「売買が活発に行われているように見せかけるためのもの」ではない。そのことは、前記のとおり、利益が出ない局面では「対当売買」を行っていないことからも明らかだ。監視委員会は、そのことを無視して、取引の外形だけで、無理やり相場操縦事件を仕立て上げたのである。

安定操作取引での起訴

監視委員会が、株価が下落したため追証が発生しないように買い支えていた期間を「安定操作取引」ととらえたのは、「対当売買」が行われていないので、「売買を誘引する目的」などの主観的要件を立証することが難しいが、「売買を誘引する目的」などの主観的要件が不要の「安定操作取引」なら立証できると判断したものだと思われる。

ところが、実は、それが大きな間違いだった。「安定操作取引」とは、有価証券の募集や売り出しを円滑に行うため、相場の安定を目的として行う市場での売買取引であり、相場操縦の代表的裁判例である「協同飼料株価操作事件」の東京高裁判決でも、「一連の売買取引が、全体として現にある相場を一定の範囲から逸脱しないようにするのにふさわしいもの」とされている。

有価証券の募集・売り出しを円滑に行うために、株価の急激な変動を回避し、一定の範囲に収まるようにする必要がある場合には、届出・報告等の所定の手続をとった上で行われる安定操作は適法とされる。一方で、そのような手続を経ることなく、株価が、「一定の範囲」から逸脱しないようにする安定操作を行った場合には、違法とされるのである。

そのような趣旨からすると、「安定操作取引」が成立するのは、「上限価格」と「下限価格」を定めて、株価がその間に収まるようにした場合であり、単に、一定の価格を下回らないように買い支えていたというだけでは、犯罪は成立しないというのが正しい解釈だ。

前述した夢の街株取得計画からしても、花蜜氏が行った一連の売買は、「夢の街」の株価を上昇させる目的で行ったものであり、同社の業績が好調であるのに、売り圧力が高まっていたことから、結果的に、株価を上昇させることができなかっただけだ。「下限価格」だけではなく「上限価格」を決めて株価が「一定の範囲」に収まるようにする意図は全くなかった。このような花蜜氏の売買は、違法な「安定操作取引」には該当しない。

ところが、監視委員会の側には、「安定操作取引」が成立するためには、「下限価格」だけではなく、「上限価格」を設定して、それを上回らないようにすることが必要だという問題認識がなかったようだ。

その問題認識がなかったのは検察官も同様だったようで、第2事実については、「下限価格」を下回らないようにしたことだけを認定して「安定操作取引」で起訴したのだ。

そして、公判で、弁護人が、上記のような「安定操作取引」に関する金商法の規定の趣旨や裁判例との関係を示して、「花蜜氏の取引は安定操作取引には当たらない」という無罪主張をしたところ、検察官は、株式取引の分析報告書の作成者の証人尋問の中で、突然、報告書にも書かれていなかった「上限価格」を具体的に問う質問を始めた。

何とかして株価を上昇させたいと思っていた花蜜氏は、「上限価格」の設定などするわけがない。当然のことながら、検察官の「上限価格」の立証は失敗に終わった。花蜜氏自身も、被告人質問で「上限価格」の設定を明確に否定した。

ということで、株価を「一定の範囲から逸脱しないようにする」ととらえる判例を前提にすると、起訴事実第2の「安定操作取引」についての検察官の立証も完全に失敗したと言わざるを得ないのである。

こうして公判での立証が終了し、検察官が論告で、「安定操作取引」についていったいどういう主張をしてくるのかと注目していたところ、何と、今度は開き直って、「上限価格を設定していなくても、違法な安定操作取引に該当する」という主張をしてきた。

驚くべき検察官の主張

【前記ブログ記事】でも述べたように、花蜜氏の主観面に関する直接証拠は何もなく、「売買を誘引する目的」についての検察官の立証は完全に失敗、「安定操作取引」についての立証も上記のとおり失敗に終わった。

ところが、検察官は、花蜜氏の夢の街株の売買取引や注文の内容という、監視委員会の調査が始まる前から客観的に存在した事実だけを根拠に、「変動操作取引」も「安定操作取引」も「有罪だ」と主張して、懲役3年と罰金2000万円を求刑してきたのである。

それに対して、弁護人が、立証の経過を問題にし、検察官の主張がいかに的外れで論外なものかを指摘しようとしたところ、検察官が異議を述べ、家令裁判長は、それを認めて、弁論の削除を命じるという信じ難い訴訟指揮を行ったというのが【前回ブログ記事】で述べた公判期日の状況だったのである。

判決は、明日3月28日午後4時から、東京地裁813号法廷で言い渡される。夢の街の創業者の花蜜氏が、まとまった同社株を取得するために行った一連の売買が、証券市場の犯罪として処罰されるべき行為ではなかったことは、誰の目にも明らかだろう。

この事件に有罪判決が下されるとすれば、日本の刑事司法は闇である。

明日(3月28日)の判決に注目して頂きたい。

 

 

 

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国会での証人喚問は「犯罪捜査のため」という暴論

3月23日に衆参両院の予算委員会で籠池氏の証人喚問が行われ、安倍昭恵夫人から100万円の寄付を受領した旨証言したことを受け、野党側は、安倍昭恵夫人の証人喚問を求めているが、与党側はそれを拒否し、安倍首相自らが、昭恵夫人の証人喚問が不要であることの理由として、

なぜ籠池さんが証人として呼ばれたのかと言えば、…(中略)…補助金等の不正な刑事罰に関わることをやっているかどうかであり、私や妻はそうではないわけであるから、それなのに証人喚問に出ろというのはおかしな話

と堂々と述べている。

国会での証人喚問は、憲法62条の「両議院は、各々国政に関する調査を行ひ、これに関して、証人の出頭及び証言並びに記録の提出を要求することができる。」と明文で認められている国会の「国政調査権」の手段の一つである。

その「調査権」にも限界があり、喚問した証人自身に対して「刑事事件」に関することを証言させることは、憲法38条1項の「何人も、自己に不利益な供述を強要されない。」との規定で保障される「供述拒否権」を侵害する恐れがあるので、議院証言法4条で「証人又はその親族等が刑事訴追を受け、又は有罪判決を受けるおそれのあるときには証言等を拒むことができる」として、憲法上当然の権利が、証人喚問においても認められている。

籠池氏が証人喚問で、「刑事訴追のおそれがあるので答弁を控えます」と述べて証言を拒否したのも、この権利に基づくものだ。

国政調査権が与えられていることは、国会の機能にとって極めて重要なことだが、「証人の犯罪に関すること」には調査が及ばないのは、あまりにも当然のことであり、常識以前の問題である。したがって、籠池氏に補助金に関する犯罪の疑いがあるのであれば、それは証人喚問の「障害」にはなりえても、証人喚問の理由になるなどということはあり得ない。

犯罪に当たる可能性のあるものだけを証人喚問するということであれば、証人喚問は「犯罪捜査のためのもの」ということになり、「刑事訴追の恐れがある」との証言拒否で終わってしまう。

ところが、その国政調査権に関する当然の常識に反して、安倍首相が、「犯罪の疑いがなければ、証人喚問は行わない」と国会で公言し、それに呼応して、政府首脳や自民党幹部までが、同趣旨のことを言い出している。まさに憲法も法律も無視した暴論が平然とまかり通るというのは、一体どういうことなのであろうか。

籠池氏の証人喚問の4時間余り後に、昭恵夫人のフェイスブックでコメントが出たことについて、形式・内容から見て、昭恵夫人自身が投稿したものではなく、首相官邸側の反論を、昭恵夫人のフェイスブックを使って公表した可能性が高いこと、昭恵夫人の行動は「私人」としてのものだと説明しながら、官邸側の対応と昭恵夫人の対応とを「一体化」させるようなやり方は不適切で、かえって、昭恵夫人を今後一層窮地に追い込むことになりかねないことを、一昨日のブログ記事【昭恵夫人Facebookコメントも“危機対応の誤り”か】で指摘した。しかし、与党自民党サイドは、依然、フェイスブックでコメントを出していることも、昭恵夫人の証人喚問が不要であることの理由にしている。

今回の問題についての自民党や官邸側の危機対応の誤りについては、【籠池氏証人喚問は、自民党にとって「危険な賭け」】【籠池氏問題に見る”あまりに拙劣な危機対応”】などで指摘してきたが、安倍首相側、官邸、自民党の対応は、これまでの対応を反省するどころか、ますます開き直り、憲法に反すること、法律に反することを、平然と公言し、行っているというのが現状である。

私は、これまで、長期化している安倍政権と日本政府について、「権力の一極集中」に漠然とした危惧感を持ちながらも、国政を遂行する能力、様々な事態に対応する能力という面では、それ相応に高いものと考えていた。少なくとも、その前の民主党政権よりははるかにましだと思ってきた。

しかし、この森友学園問題という、外交・防衛等の国政の重要課題とはレベルの違う、些細な問題での対応に失敗し続け、最後には、法治国家ではあり得ないような対応を、組織を挙げて行っている安倍政権の現状を見ると、やっていることのレベルは、混乱が続いている近隣諸国と変わらない。

日本人であることが不安になってきたというのが偽らざる思いである。

 

 

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官僚の世界における“忖度”について「確かに言えること」

森友学園の土地取得をめぐる問題に関して、「忖度」(そんたく)という言葉が話題になっているが、この言葉は、典型的な官僚世界の用語であり、日本の官公庁や官僚的体質の企業等に所属したことがない人にはなかなか理解することが難しいようだ。外国特派員協会での籠池氏の講演の際に、この言葉がなかなか理解されなかったのも無理はない。

過去に、23年間、検察という官僚組織に所属した経験に基づいて、私なりの理解で、この「忖度」という言葉について、「確かに言えること」を書いておこう。

①「忖度」は、される方(上位者)にはわからない。

「忖度」というのは、上位者の意向を、本人に確認することなく、もちろん、指示・命令を受けることもなく、推察して、その上位者の意向に沿うように行動することである。他人にはわからないように行うところに本質がある。少なくとも、間違いなく言えることは、「忖度」は、される側にはわからないし、わかるようなものであれば「忖度」とは言わない。

直接確認し、指示・命令を受けるのであれば、「忖度」をする必要はない。「直接、意向を確認しにくい関係・内容」、「確認して指示を仰ぐことに差し障りがある事柄」であるからこそ「忖度」が行われる。

森友学園の件では、財務省理財局、近畿財務局、大阪府等の職員の「忖度」が問題にされているが、彼らは、まず直接的には、それぞれの組織のトップないし幹部の意向を「忖度」するわけだが、さらに、そのトップないし幹部の意向が、「『安倍首相の意向』に沿う意向」であろうと「忖度」しているのではないかが問題になっているのである。つまり、「忖度」が何重にも積み重なっている。

②「忖度」は、行う本人も意識していない場合が多い。

「忖度」というのは、終身雇用制、年功序列制のピラミッド型官僚組織の中で、役人が生き残り、昇進していくために、わきまえておかなければならない「習性」のようなものであり、有能な官僚であればあるほど、意識しないで、自然に上位者の意向を「忖度」することになる。

私の場合、もともと、理系出身で法学部も出ておらず、検察の世界にたまたま引きずり込まれただけの全くの異端者だった(拙著【検察の正義】ちくま新書)。それだけに、組織内で行われている「忖度」には、かなりの違和感があり、それを自分なりにリアルに感じとることができた。そのような世界に抵抗なくなじんだ組織人は、意識することなく、まさに呼吸をするような自然さで「忖度」をしている。

だから、「忖度」をした人に「忖度をしたでしょう?」と聞いても、それを肯定する人はあまりいないのではないだろうか。

③「忖度」で違法・不当な行為は行われない

「忖度」は、官僚が、その「裁量の範囲」で、上位者の意向に最も沿う対応をするものである。裁量を逸脱する違法・不当な行為は、後々、それが指摘されれば、処分等のリスクにつながるため、意図的には行わない。「忖度」は、上位者に報告や指示・命令を仰ぐことなく行うのであるから、違法・不当な行為のリスクは、すべて下位者が負うことになるからだ。「忖度」で行う範囲は、裁量権の及ぶ範囲内で、最も上位者の意向に近いもの、ということになる。

「忖度」したかどうか、というのは、その状況と、行われた行為が裁量の範囲の中で、最も上位者の意向に近いかどうか、という客観的状況から、推認を働かせるほかないのである。

④ 官僚は「忖度」で評価される。

官僚の世界で、上位者から評価されるのは、違法・不当ではない「裁量」の範囲での方針決定について、上位者に方針を確認したり、判断を仰いだりせず、その意向を「忖度」して動ける人間である。上位者にとっては、そういう人物こそ、上位者の意向・方針を、上位者の手を煩わせることなく実行してくれるので、大変好都合なのである。しかも、それは、今回のように、「忖度」によって行った対応が問題にされた時には、実際に問題に関わっていないので、上位者にとって、リスクを最小化できるという面でもメリットがある。

そういう意味で、官僚の世界では、「忖度」の「習性」を身に着け、それを確実に行える人物が、「能力の高い官僚」と評価され、いちいち上位者の意向を確認しなければ対応できない人間は「無能」と評価されるのである。

 

以上のような「忖度」についての基本的な理解を前提とすれば、国会で「忖度した事実がない」と答弁している安倍首相は、官僚の世界における「忖度」の意味を理解しているとは思えない。

一方で、野党側が、参考人招致や証人喚問等で「忖度」の事実を明らかにしようとしているのも、あまり意味があることとは思えない。

「忖度」というのは、組織内に、「磁場」のように存在し、物事を一定の方向に向かわせていく力であり、それは、官僚にとって特別のことではなく、しかも、違法・不当なものではなく、裁量の範囲内でやっているだけであるから、「忖度したか」とか、「それが、具体的にどの程度影響したか」ということ突き詰めようとしても、その解明はほとんど無理である。

むしろ、その「磁場」の存在の背景となっている、権力構造そのものの問題を考えていくしかない。

現状で言えば、官僚の世界が、終身雇用制、年功序列制が維持されるピラミッド型組織で、内閣人事局に各省庁の幹部人事権が握られ、それを動かす政治の世界が、国会は与党が圧倒的多数、その与党の党内も、小選挙区制のために、公認候補の決定権を持つ党幹部に権力が集中しているという状況は、まさに、最も「忖度」が働きやすい構図であることは間違いない。

むしろ、重要なことは、今回の問題がまさにそうであるように、行政の透明性を高め、その手続が問題になった時に、「忖度」が働いたかもしれないプロセス自体を公開することである。

森友学園の土地売却をめぐる問題がここまで深刻化した原因は、国有地売却の経過や交渉についての文書・記録が「廃棄された」と説明され、「忖度」の実態が覆い隠されているように見えることなのである。

 

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昭恵夫人Facebookコメントも“危機対応の誤り”か

 森友学園籠池氏が、昭恵夫人を通して安倍首相から100万円の寄付を受領したと発言した直後に、自民党竹下亘国対委員長が、「総理に対する侮辱だ。たださないといけない」と述べ、自民党側から「籠池氏証人喚問」を仕掛けたことについて、当ブログで【籠池氏証人喚問は、自民党にとって「危険な賭け」】として、自民党側の対応を疑問視し、その後も【籠池氏証人喚問、高度の尋問技術が求められる自民党質問者】として、自民党側の証人喚問への対応に困難さを指摘し、それを理解しているとは思えない自民党側の対応について、【籠池氏問題に見る”あまりに拙劣な危機対応”】と述べた。

3月23日に行われた証人喚問では、籠池氏は、昭恵夫人が森友学園の小学校設置構想に主体的に関わっていたことを印象づける証言を行い、それに対して、与党側の「反対尋問」としての質問も、籠池氏を「嘘つき」呼ばわりするだけで、ほとんど空振りに終わった。それどころか、土地問題について籠池氏側から依頼を受けた昭恵夫人付の官僚が籠池氏側に回答をファックス送付した事実も明らかになり、安倍昭恵夫人が関わった「口利き」疑惑が表面化するなど、籠池氏証人喚問は、森友学園問題に決着を付けるどころか、事態を一気に深刻化させることになった。

籠池氏が「昭恵夫人を通じて安倍晋三首相から100万円の寄付を受けた」という話に反応して、拙速に「証人喚問」に持ち込んだ段階で、このような結果は目に見えていたはずだ。

結果的に、籠池氏証人喚問は、自民党、首相官邸にとって最悪の結果に終わり、まさに、“拙劣極まりない危機対応”であったことが明らかになった。政権与党の自民党側としては、今後はそのような間違いを犯さないよう反省しなければならなかったはずだ。

ところが、籠池氏証人喚問終了のわずか4時間余り後の午後9時半頃、私が、テレビ朝日のインターネットテレビ番組「AbemaPrime(アベマプライム)」に、「安倍総理に最も近いジャーナリスト」と言われる山口敬之氏とともに出演している最中、昭恵夫人がコメントを出したとの速報が流れた。番組終了後に確認したところ、昭恵夫人個人のフェイスブックのタイムラインに掲載されたものだった。

昭恵夫人のコメントを個人のフェイスブックで出したのは、昭恵夫人個人の立場でのコメントであることを強調するためであろう。実際に、「森友学園に関する問題についての初めての昭恵夫人個人のコメントが籠池氏の証人喚問の直後に出された」ということで、報道でもかなり大きく取り上げられている。

しかし、以下に述べるとおり、細かく分析すると、昭恵夫人のフェイスブックコメント(FBコメント)の形式・内容には、多くの疑問があり、今後、昭恵夫人の証人喚問を求める声がますます強まると予想される中で、かえって、安倍首相側、官邸側にとってマイナスに作用する可能性が強いと考えられる。

 まずFBコメントを全文引用する。(下線は筆者)

 本日の国会における籠池さんの証言に関して、私からコメントさせていただきます。

①寄付金と講演料について

私は、籠池さんに100万円の寄付金をお渡ししたことも、講演料を頂いたこともありません。この点について、籠池夫人と今年2月から何度もメールのやりとりをさせていただきましたが、寄付金があったですとか、講演料を受け取ったというご指摘はありませんでした。私からも、その旨の記憶がないことをはっきりとお伝えしております。

本日、籠池さんは、平成27年9月5日に塚本幼稚園を訪問した際、私が、秘書に「席を外すように言った」とおっしゃいました。しかしながら、私は、講演などの際に、秘書に席を外してほしいというようなことは言いませんし、そのようなことは行いません。この日も、そのようなことを行っていない旨、秘書2名にも確認しました。

また、「講演の控室として利用していた園長室」とのお話がありましたが、その控室は「玉座の間」であったと思います。内装がとても特徴的でしたので、控室としてこの部屋を利用させていただいたことは、秘書も記憶しており、事実と異なります。

②携帯への電話について

次に、籠池さんから、定期借地契約について何らか、私の「携帯へ電話」をいただき、「留守電だったのでメッセージを残した」とのお話がありました。籠池さんから何度か短いメッセージをいただいた記憶はありますが、土地の契約に関して、10年かどうかといった具体的な内容については、まったくお聞きしていません。

籠池さん側から、秘書に対して書面でお問い合わせいただいた件については、それについて回答する旨当該秘書から報告をもらったことは覚えています。その時、籠池さん側に対し、要望に「沿うことはできない」と、お断りの回答をする内容であったと記憶しています。その内容について、私は関与しておりません

以上、コメントさせて頂きます。

平成29年3月23日

安倍 昭恵

まず、形式面から、このFBコメントは、少なくとも、昭恵夫人の他の投稿とは多くの点で異なり、昭恵夫人自身が自ら書き込んで投稿したものかどうか疑問がある。

一つは、昭恵夫人のフェイスブックの投稿は、すべて年号が西暦表示になっており、数字はすべて半角表示であるのに、このコメントでは年号が元号で表示され、数字がすべて全角で表示されている。フェイスブックでは常に西暦表示を使っている昭恵夫人が、森友学園で講演をした日を「平成27年9月5日」と自ら書くことは考えにくい。また、昭恵氏のフェイスブックでは、通常、数字は半角で使われており、全角を用いているものは見当たらない。

また、昭恵夫人が使うとは考えにくい、典型的な「役人用語」が多く使われている(コメントの引用にアンダーラインを引いた部分)。特に「旨」「当該」「何らか」などの言葉は、典型的な「官僚的、公用文書的表現」であり、そのような役人仕事、公的事務の経験がない昭恵夫人が書いた言葉としては違和感がある。

これらのことから、このFBコメントは、昭恵夫人が直接フェイスブックに書き込んで投稿したのではなく、別に作成された文書を、フェイスブックの投稿欄にコピー・アンド・ペーストしたのではないかと考えられる。

次に、内容面からしても、昭恵夫人自身が書いたものではない疑いがある。その後の菅官房長官の記者会見での説明や、安倍首相の参議院予算委員会での答弁と比較すると、むしろ、証人喚問での籠池証言に対する「首相官邸側の反論ないし弁明」そのものであり、官邸側が作成して、昭恵夫人に投稿を依頼したのではないかとさえ思える。

まず、このFBコメントは、(1)100万円の寄付を行っておらず、10万円の講演料も受領していないこと、(2)「秘書に席を外すように言った事実」がないこと、(3)講演の控室が園長室ではなく「玉座の間」であったこと、(4)籠池氏からの携帯電話の内容、(5)籠池氏から秘書に対して書面で問い合わせを受けた件についての秘書からの報告を受けたこと、(6)「要望に沿うことはできない」という内容の回答をする旨の報告を受けたことという、籠池証言に対する首相官邸側の主要な反論をすべてカバーしている。

これだけの内容を過不足なく、籠池証言から僅か4時間余り後に、昭恵夫人が自らの記憶に基づき考えをまとめて、自ら投稿したとは、他の投稿や携帯メールの文面からすると、考えにくい。

しかも、(3)は、講演料や寄付金のことについて「記憶から飛んでしまって」「全く記憶がない」と言っている昭恵夫人が、1年半前の講演での控室が「園長室だったのか、それに隣接する玉座の間だったのか」具体的に記憶しているとは考えにくい。

(5)(6)についても、谷査恵子氏が籠池氏から受け取った手紙と、それへの対応として文書をファックス送付したことについての報告を言っているものと思えるが、この点についてのFBコメントの内容は、ファックス文書に書かれている内容と整合している。この点についても、現金の受け取りの有無について全く記憶のない昭恵夫人が、谷氏からの報告内容については明確に記憶しているということは極めて考えにくい。しかも、政府側は、谷氏が籠池氏からの手紙に対応したことは、「総理大臣夫人付職員」の「公務」ではなく、谷氏の公務員「個人」としての対応だったと説明しているのであるから、なおさらである。

これらのことから、このFBコメントは、首相官邸側で、籠池証言に対する反論として作成したものを、昭恵夫人のフェイスブックで発信させた可能性が高いと考えられる。ネット上の他のブログでも、昭恵夫人が書いたものではないとの見方が見られる(小林よしのり氏【アッキード事件の証明】など)。

偽証の制裁の下で証言した籠池氏と正面から相反するFBコメントが出されたことで、昭恵夫人の証人喚問を求める声が一気に高まっている。

もし、昭恵夫人の証人喚問が行われた場合、或いは記者会見を行った場合、100万円の寄付をしたことや10万円の講演料受領や谷氏を通じての「口利き」について質問されることになるが、その場合、籠池証言の直後に、昭恵夫人個人のフェイスブックでの投稿という形式で公表したコメントについて、その作成と投稿の経緯について質問を受けるのは必至だ。その場合、昭恵夫人に、上記の重大な疑問を解消する説明ができるだろうか。

今回のFBコメントを出したことによって、今後、首相官邸側としては、これまで以上に、昭恵夫人を、証人喚問はもちろん、記者会見の場にも立たせることはできないということになるのではないか。

しかし、会見等を避ければ避けるほど、首相官邸側が作成したコメントを昭恵夫人がフェイスブックで投稿した疑いは一層深まることになる。それは、昭恵夫人個人の私的行為と、首相官邸の対応とが「一体化」していることを示す事実であり、これまで安倍首相が繰り返してきた「妻の言動は独立した個人としてのもの」との答弁にも重大な疑問を生じさせることになる。

昭恵夫人にも確認して官僚側で作成した文書なのであれば、「個人のフェイスブックでの投稿」という形で、昭恵夫人が自らコメントしたかのように見せかけるような小細工はせず、昭恵夫人のコメントをまとめたものとして、官邸が公表するのが正直なやり方だ。昭恵氏の証人尋問を回避しようとしたことが、かえって昭恵夫人を窮地に追い込むことになりかねない。

安倍首相は国会で、昭恵夫人が「100万円の記憶がないのですが」と籠池氏の妻にメール送付したのち、返信がなかったことを、100万円の寄付がなかったことの証明であるかのように言っているが、すでにその100万円の問題について籠池氏が証人喚問されることが確定的になっている状況で、籠池氏の妻がその問いかけに答えなかったからと言って、100万円の事実を否定する根拠にも、昭恵夫人の喚問を拒否する理由にもならない。

菅官房長官は、谷査恵子氏が籠池氏の求めに応じて財務省に照会していたことを示す資料を、証人喚問終了と相前後して、記者会見で報道陣に配布したが、その際、谷氏のメールアドレスや携帯電話番号という重要な個人情報をマスキングしないまま配布したとして、翌日の国会答弁で謝罪した。証人喚問での籠池証言によって、官邸側が相当な混乱に陥っていたということだろう。

そのような官邸の混乱状態の中、籠池証言に対する反論を大慌てで作成し、昭恵夫人個人のコメントとしてフェイスブックで出すことを決定し、喚問終了後4時間余りで急きょ公表したとすると、証人喚問を提案することの決定と同様に、あまりに拙速であり、これもまた危機対応の重大な誤りだと言わざるを得ない。

森友学園問題は、国家予算、外交、防衛等の問題と比較すれば、とるに足らない些細な問題である。しかし、その問題で、籠池氏一人に、翻弄され、狼狽し、危機対応の誤りを繰り返している首相官邸の対応を見ていると、この状態で、一層緊迫化する北朝鮮問題など、国家としての重要問題への対応は大丈夫なのかと、不安にならざるを得ない。

 

 

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籠池氏問題に見る”あまりに拙劣な危機対応”

報道によると、昨日の夜、自民党が、23日の衆参両院予算委員会での籠池氏証人喚問の質問順を、野党を先にすることを提案し、野党側の反対で、結局、自民党が最初に質問をすることになったようだ。

自民党側には、籠池証言を崩す自信がないのだろうか。籠池氏の100万円寄付発言を「首相への侮辱」「問い質したい」と言って証人喚問を求めたのは自民党側だ。籠池証言を崩す自信がないのなら、やめておけば良かった。

明日の籠池氏の証人喚問がどのような展開になり、どのような結果で終わるかはわからないが、少なくとも、籠池発言が出た段階で、その挑発に乗る形で自民党側から「証人喚問」に打って出たのは、「危機対応」としては全くの誤りだった。

野党側の対応も決して褒められたものではない。4党の議員が雁首そろえて籠池氏の話を聞きに行ったのは、明らかに「前のめり」だった。籠池氏から、「政治家に現金を渡した」という話が出ると期待して行ったのだろうが、逆に「安倍首相から100万円寄付受領」などという話を持ち出されてしまった。この時点で、野党側は、その話をどうするつもりだったのだろうか。

これに対して、自民党側としては、どっしり構えて、安倍首相が完全否定コメントを出し、野党側に「参考人で出すのなら出してみろ」と毅然たる態度で臨めばよかった。野党が籠池参考人招致を求めてくれば、自民党側から、「喚問の目的に100万円寄付の件は含まれるのか」と聞けばよい。籠池証言の信用性に確証が持てない野党側としては、対応が難しかったはずだ。特に、「永田メール問題」のトラウマがある民進党は、共産党との共同歩調をとることもできなかった可能性がある。

ところが、何と、その直後に、事もあろうに自民党側から「証人喚問」を求めたので、野党側は救われた。自民党側は、「籠池氏に問い質す」と言って証人喚問に持ち込んだ以上、当然、「籠池氏の話を聞くこと」が主眼となる。証人から話を聞き、その証言の真偽を判断することが目的なのだから、【籠池氏証人喚問、高度の尋問技術が求められる自民党質問者】でも述べたように、それ自体で独立した「物証」と評価されるものではなく、森友学園側が作成した郵便払込受領証であっても、事後的に作出されたものでなければ、籠池供述を補強する証拠にはなり得る。

「籠池氏側が物証を出して来るかどうかが問題」と言う声があるが、「物証」だけが問題なのであれば、最初から「証人喚問」などやる必要はない。100万円寄付発言には取り合わず、籠池氏側に、「あなたのいい加減な話を聞くつもりはない。物証があるなら出せ」と要求すればよかったのである。証人喚問を行う以上、それではすまない。

もちろん、私にも、籠池氏の「100万円寄付受領発言」の真偽はわからない。安倍首相が断言するように、「全くそのような事実はない」というのが真実で、籠池氏の「作り話」なのかもしれない。しかし、もし、そうだったとすれば、国会に引っ張り出して「作り話」をさせた上、その話を崩すことも、信用性を否定することもできなかった、では済まされない。

問題は、自民党内で、このような「拙劣な危機対応」を決断したのは誰なのかという点だ。竹下亘国対委員長が独断で決めたとは思えない。安倍首相自身に関する問題なので、安倍首相が決断したか、少なくとも了承したからこそ、短時間で方針が決まったのではなかろうか。そうであるとすれば、国のリーダーとして、「危機対応」の判断力には、一抹の不安を感じざるを得ない。

 

 

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籠池氏証人喚問、高度の尋問技術が求められる自民党質問者

3月23日に、衆参両院の予算委員会で、森友学園理事長籠池泰典氏の証人喚問が行われる。安倍首相から妻昭恵夫人を通して100万円の寄付を受領したとの籠池氏の発言を受けて、自民党側から提案して決定されたもので、自民党側から仕掛けた証人喚問だ。

安倍首相は、100万円の寄付について、自身も妻の昭恵氏も行っていないと全面否定している。【籠池氏証人喚問は、自民党にとって「危険な賭け」】でも述べたように、小学校の設置認可申請の取り下げに追い込まれたことで、国から土地の原状回復と返還を求められることが必至となり、入学予定の児童の保護者への入学金等の返還に加え、校舎の建物工事代金の支払等で窮地に追い込まれている籠池氏は、「公費による支援」まで持ち出しているようであり、国に対抗して自らの立場を守るために、一発大逆転を狙って事実ではない架空の寄付金受領話をし始めた可能性もある。少なくとも、籠池氏には「虚偽供述の動機」が存在している可能性があることは確かだ。

今回の証人喚問は、100万円の寄付受領の話を始めた籠池氏に対して「首相に対する侮辱」とまで言い切って、自民党側が自ら仕掛けたものであり、自民党側としては、その話が虚偽であること、信用できないことを明らかにし、同氏の偽証告発に持ち込むことが最大の目標であることは言うまでもない。

一方で、籠池氏がこれまで取ってきた態度からすると、籠池氏は、証人喚問で100万円の寄付受領の事実を詳細に語ると思われる。それに対して、証言の信用性にあまり疑いを生じさせることができず、「言いたい放題」で終わってしまった場合、籠池氏は、今後も、「国会で詳しくお話したとおり」などと言って、土地取得問題や小学校の認可問題の事後処理の中で、事あるごとに「安倍首相からの寄付の話」を引き合いに出し、安倍政権側にとって一層厄介な事態になりかねない。

しかも、100万円の現金受領の話が否定できないといこうとになると、昭恵夫人を含む関係者の証人喚問又は参考人招致という、安倍政権にとっては最悪の事態に追い込まれかねない。

今回の証人喚問は、想定される証言の信用性に疑念を生じさせ、あわよくば虚偽証言であることを明らかにするために行われるものであり、少なくとも、証人喚問を仕掛けた自民党側にとっては、裁判の場での尋問で言えば「反対尋問」である。主尋問が、予定されている証言内容について、淡々と質問していけばよいのと異なり、主尋問での証言を崩すための反対尋問というのは、高度な尋問技術が求められる。今回の証人喚問で、籠池氏の証言の信用性に疑念を生じさせたうえで偽証告発の足掛かりをつかむことを期待される自民党の質問者の議員の責任は重大である。

籠池氏「反対尋問」は容易ではない

しかし、実際の証人喚問で、籠池氏の証言の信用性を否定するために効果的な尋問を行うことは決して容易ではない。

第1に、尋問のポイントとなる点が複数あり、しかも、その相互関係が微妙なので、尋問の戦略が立てにくいということである。

籠池証言に関してポイントとなるのは、①昭恵夫人との間での100万円の現金授受の有無、②(授受があったとして)それが「安倍晋三首相からの寄付」であったか否か、③「安倍晋三首相からの寄付」「昭恵夫人の名誉校長就任」を、森友学園の小学校開校のための用地取得、設置認可等に関して、有利に活用しようとした事実の有無、④他の政治家に対して森友学園の小学校開校のための用地取得や設置認可等に関する尽力を依頼した事実、それに関する謝礼等の支払の有無である。

もともと野党側が籠池氏の参考人招致を求めていたのは、③、④についての話を聞くことが中心だった。それを拒絶し続けてきた自民党側が、急転直下、証人喚問を決断したのは、①、②についての籠池氏の発言を放置できなくなったからであり、まさに、自民党質問者にとって最大の目的は、①、②についての籠池氏の話が信用できないことを明らかにすることである。

しかし、ここには二つの厄介な問題がある。

一つは、籠池氏に対する質問で、①と②のいずれの否定に主眼を置くかである。仮に、昭恵夫人からの現金受領という①の事実が否定されなくても、それが「安倍首相からの寄付」だという②が否定できれば、安倍首相自身の問題にはならない。しかし、現在のところ、安倍首相は①、②の両方を否定しており、自民党質問者としては、それに沿って両方を否定するスタンスで質問せざるを得ないだろう。

しかし、籠池氏の証言内容如何では、①については、相当程度事実があった可能性が高いと判断せざるを得なくなる場合もありうる。その場合は、むしろ、②に力点を置いて、「昭恵夫人からの現金寄付があったとしても、安倍首相からではない」という点を守り抜かなければならない。その点についての判断は極めて微妙だ。

二つ目の問題は、①、②についての質問の仕方が、③についての籠池氏の証言に影響を与える可能性があることである。①、②について、「安倍首相からの寄付はなかったのではないか」と追及的な尋問を行えば、それに反発して、籠池氏側は、③に関して、近畿財務局や大阪府側との交渉・折衝において、「安倍首相からの寄付」をちらつかせていたことを強調する可能性がある。それは、「安倍首相に関連する小学校との認識から、安倍首相の意向を『忖度』して森友学園に有利な取り計らいをしたのではないか」との疑念を強めることになってしまいかねない。

「100万円寄付受領」をめぐる証拠関係

第2に、①、②に関しては、証人喚問決定後、籠池氏側の「100万円寄付受領」を裏付ける方向での証拠と、官邸側からの否定する方向での証拠の存在が明らかにされており、自民党質問者は、それらの証拠を念頭において質問をすることになるが、証拠評価について事前に十分な検討が必要となる。

官邸側が明らかにしているのは、同行した職員の「現金のやり取りが行われるような場がなかった」との供述である。もし、政府職員が「常に」同行していて、籠池氏と昭恵夫人との間で「現金のやり取りを行う機会」が全くなかったのであれば、現金の授受は完全に否定される。しかも、籠池氏は、野党議員に対して、「100万円の現金を受け取った後、『感謝』と称して10万円を包んで渡した」と述べているようである。100万円と10万円の二つの現金授受の機会が存在したのか、という点が問題になる。

この点に関して、籠池氏の長女の籠池ちなみ氏は、菅野氏のツイキャスで、100万円の授受は、塚本幼稚園内にある「玉座の間」というところに、籠池夫妻と昭恵夫人の3人だけが入っている際に行われたと説明している。ちなみ氏の話によると、特別の客人以外は入室できない場所のようにも思える。籠池氏が、「玉座の間」で現金100万円を昭恵夫人から受け取ったと具体的に証言した場合、同行政府職員が、「玉座の間」についてどのように記憶しているのかが問題となる。昭恵夫人がそのような部屋に入った事実がないというのか、入室したが、その際、職員が同席していたというのか。一方、籠池氏側から昭恵夫人に渡したとされる10万円については、どこでどのように渡したのかは明確ではない。その点についての籠池氏の証言が、同行政府職員が監視していたとしか思えない場での現金授受であれば、職員の供述によって否定できる可能性は高まる。

「同行政府職員は、常時、昭恵夫人の近くでその動向を監視している」という一般論だけでは、塚本幼稚園において籠池氏と昭恵夫人との間で現金を授受する機会がなかったことの証明には不十分である。塚本幼稚園内での昭恵夫人の行動の詳細について、政府職員から具体的に確認しておく必要がある。

籠池氏が出してきた「郵便振替受領証」

一方、籠池氏側から出てきている証拠は、菅野完氏が公開した2015年9月7日付けの郵便振替受領証である。9月7日の月曜日に森友学園の寄付受領口座に100万円を入金した際のものだが、その払込人欄は、「安倍晋三」、「匿名」の記載が、それぞれ修正テープで消され、「㈻森友学園」に修正されている。これについて、籠池氏側は以下のように説明しているようだ。

9月5日の土曜日に昭恵夫人から受領した現金100万円を、一旦金庫に入れ、7日の月曜日に寄付受領口座に入金した。その際、「安倍晋三からの寄付」であることは公式には表に出さないことになっていたので、郵便局に残る側の「払込取扱票」には森友学園と記載したが、学園側に残る「受領書」には、「安倍晋三」が寄付者であることがわかるようにしておこうと考えて、払込人欄に「安倍晋三」と記載して学園職員が郵便局で払込手続をしようとした。しかし、払込取扱票と受領書の名義が異なっていたのでは受け付けられないと言われ、会計士に相談した上、「匿名」と修正したが、それでも受け付けてもらえず、「㈻森友学園」に修正した。

もちろん、森友学園側で作成した書類であり、それ自体が「独立した客観的証拠」としての価値が認められるものではない。郵便振替の受領書を、修正テープで修正することの不自然性なども指摘されているが、確かに、このような形で郵便振替手続を行おうとすること自体、普通には考えにくいことだ。

しかし、少なくとも、2015年9月7日に、森友学園の寄付受領口座に100万円の入金があったことは否定できない事実であり、週末にたまたま他からの100万円の現金授受があったのでない限り、2日前の土曜日に昭恵氏との間で現金授受があったことの推認につながる。

また、修正箇所に郵便局長の印が押捺されていることからも、「安倍晋三」と一旦記載されていたことは間違いない。その時点で、籠池氏が、現在のような事態を想定し、偽装工作を行っていたとも考えられないので、この受領証が、9月5日に昭恵夫人から「安倍晋三から」として現金100万円を受領し、領収書は拒絶されたので匿名扱いにしたとの籠池氏の供述と整合し、籠池証言の信用性を高める方向に作用することは否定できない。

講演料を寄付に振り替えた可能性

このような100万円の現金の動きに関する一つの推測として、官邸側から、「籠池氏側は、昭恵夫人が講演に訪れる際に、予め、講演料として現金100万円を用意していたが、その受領を拒絶されたため、それを、寄付金を受領したように処理したのではないか」という話が出ているようだ。

しかし、塚本幼稚園PTAの決算書には、同年度の「社会教育費」の40万円の支出について、摘要欄に「6/21姫路城(親子遠足) 11/26京都御所(社会見学)」という記述に続き、「社会講座 7/11谷川浩司先生 9/5首相夫人安倍昭恵先生」との記述がある。塚本幼稚園での講演に講演料が支払われているとすれば、この40万円に含まれている可能性が高い。いずれにしても、100万円というのは、幼稚園のPTAでの講演料の金額としては多過ぎるといえ、もし、そのような金額の現金を籠池氏が事前に用意していたのであれば、その現金の出所がなければならない。また、「籠池氏側が講演料を渡そうとしたが昭恵夫人が拒絶した」のであれば、同行政府職員が、常時、昭恵夫人の近くで監視していたとの前提からすると、「昭恵夫人が講演料の受領を拒絶した場面」を同行職員が見ていないとおかしいことになる。

自民党質問者から、前記①、②についての質問をすれば、籠池氏側から、郵便振替受領書についての証言が出てくるはずだ。それに対して、どのような事実関係、証拠関係を念頭において質問を行うのか。「払込手続や記載の修正が不自然だ」といくら言ったところで、今回の事態を受けてねつ造したものであることを明らかにできない限り、籠池証言の補強としての証拠価値は否定できない。漫然と質問すると、籠池氏の具体的な説明によって、かえって「不自然さ」を薄め、信用性を高めることになりかねない。

籠池供述の一般的否定と人格非難

「昭恵夫人からの100万円の寄付受領」の事実自体についての質問とは別に、これまでの籠池氏の行動や発言から、一般的に信用性を否定するという「人格非難」的な方法も考えられる。反対尋問で証人を弾劾する際にしばしば使われる方法であり、私も、美濃加茂市長事件で贈賄供述者の反対尋問や、その信用性を否定する弁論で活用した。

しかし、籠池氏は、少なくとも今回の問題が表面化するまでは、昭恵夫人とは良好な関係であり、昭恵夫人は小学校の名誉校長就任まで引き受けていた。安倍首相も、国会で、当初は、籠池氏が理事長を務める森友学園について「しつけ等をしっかりしているところに共鳴した」と答弁していた。そのような籠池氏の人格非難が行き過ぎると、昭恵夫人や安倍首相のイメージ低下につながりかねない。「人格非難」には制約があると言わざるを得ないだろう。

むしろ、個別の事項について、籠池氏の言動に虚偽があったことを追及していくのが得策だと思われる。

籠池氏の虚偽が疑われる言動について、様々な指摘がなされている。最近では、「籠池氏が昨年10月に、感謝状贈呈式で稲田防衛大臣と会った」との赤旗記事が、籠池氏が参加していなかったとわかったことで訂正記事が出された問題等が、籠池氏の供述の信用性に関連づけて報じられているが、同記事は籠池氏の妻の諄子氏の証言に基づくもので、籠池氏の供述の信用性には直接関係がない。しかも、籠池氏側がそのような発言をしたのか、赤旗の側の取材の誤りなのかもわからない。少なくとも自民党質問者には取り上げにくい問題だろう。

金額が違う小学校の建築工事の請負契約書が3通あるという話も、請負契約書の作成経緯や提出の目的などについて、事実を詰めておかないと、籠池氏の好きなように弁解される可能性もある。

むしろ、重要なのは、「森友学園問題が表面化した際に、代理人弁護士に、財務省側から『しばらく身を隠しておくように』という要請があった」と籠池氏が述べていることであろう。

この話は、「昭恵夫人からの100万円の寄付受領」の話が出てくるのとほぼ同時期に出てきたものであり、いずれも、このところ籠池氏のスポークスマン的な立場で対応している菅野完氏が明らかにした事実である。この事実が虚偽だとすると、100万円の寄付受領の供述の信用性にも大きな影響を与える。

しかし、この件についても、長女のちなみ氏は、上記のツイキャスで、籠池氏の話に沿う話をしている。塚本幼稚園に来るのを欠かしたことがない籠池氏が、その期間だけ幼稚園に来なかったと述べている。籠池氏の代理人だった弁護士が、上記事実を菅野氏が明らかにした直後「財務省から要請があった事実はない。籠池氏の代理人を辞任する」とのファックスをマスコミ各社に送付したとのことであるが、その際、弁護士名は一切明らかにしないように求め、その後一切マスコミに対応していないようであり、責任を持って発言しているとは言い難い面もある。籠池氏の証人喚問で、籠池証言の信用性を争うための事実として取り上げるのであれば、少なくとも、その弁護士から事実確認を行っておくことが不可欠であろう。

証人喚問による真相解明を

質問者が言いたいことを滔滔と述べることに終始することも珍しくない通常の国会質問とは異なり、今回の証人喚問は、どのように質問をし、何を証言させるのかという刑事事件的な尋問技術が求められる、まさに真剣勝負である。問題は、このような証人喚問の質問者の重責を、誰が担うかである。

自民党には、若狭勝氏と山下貴司氏という二人の検事出身の衆議院議員がおり、一応候補になるように思える。しかし、一般的には、有罪・無罪を争う刑事事件では、起訴事実を立証する側の検察官が主尋問、弁護人が反対尋問を行う立場になる場合が大部分なので、検察官の世界には「反対尋問」の経験とノウハウはあまりない。自民党議員には、他にも法曹資格者が相当数いるはずであり、反対尋問技術という面から最も適した議員を選ぶべきであろう。

証人喚問までの時間は限られているが、質問者の議員には、本稿で述べてきたことも参考にしてもらった上、是非、効果的な反対尋問を行ってもらいたい。それによって、今回の証人喚問を、真相解明に結び付けてもらいたい。

 

 

 

 

 

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籠池氏証人喚問は、自民党にとって「危険な賭け」

森友学園の小学校開設をめぐる問題に関して、参院予算委員会の大阪府での現地調査で、籠池泰典理事長が「安倍晋三首相から、夫人の昭恵氏を通じて100万円寄付を受けた」と述べ、その後、野党の議員らの前で同様の事実を説明した上、「国会ですべて話をする」と述べた。

このような籠池氏の発言を受け、その後、自民党側から、民進党に、23日に衆参両院の予算委員会で、籠池氏の証人喚問をそれぞれ実施することが提案され、17日に衆参の予算委で正式決定することになったと報じられている。

「危険な賭け」に出た自民党

これまで、民進党などが求める参考人招致を拒否してきた自民党が、今回、逆に証人喚問を提案した理由について、竹下亘自民党国対委員長は

(籠池氏を)たださなければいけないという思いは非常に強く持っている。総理に対する侮辱だからしっかり受け止めなければならない

と記者団に述べた。

もし、籠池氏が言う「安倍首相からの寄付金100万円を昭恵夫人から受け取った」という事実があったとすると、国会で、「寄付金集めにも、まったく関わっていないと言うことは、はっきりと申し上げておきたい」と明言していた安倍首相には致命的な事態になる。「安倍首相から」との点を別にしても、これまでに明らかになっている森友学園の小学校新設をめぐる様々な問題からすると、「安倍首相夫人からの100万円の現金の受領」だけでも、安倍首相にとって重大な事態になることは避けがたい。

自民党側が、野党側が求めてきた「参考人招致」ではなく「証人喚問」を提案したのは、それによって、偽証をすれば刑事罰を科される立場に籠池氏を追い込み、「昭恵夫人から100万円の寄付を受けた」との証言を撤回させるか、証言を維持するのであれば、偽証罪での告発によって籠池氏の証言が嘘であることを司法判断で明らかにしようという意図であろう。

しかし、もし、偽証の制裁を覚悟の上で行った国会で、「昭恵夫人から100万円受け取ったとの話が虚偽であった」と認めさせることも、虚偽だとする明確な根拠を示すこともできなかった場合には、逆に、籠池氏の証言が重みをもつことになる。それは、安倍首相にとって最悪の事態になりかねない。

自民党としては、国会での圧倒的多数の「数の力」で偽証告発に持ち込もうという考えかもしれないが、議員証言法では、証人の告発は、委員会の3分の2の賛成が必要である。衆議院予算委員会では、委員長を除く49名の委員の3分の2は33人であり、自民党の30人だけでは足りない。少なくとも、公明党の委員3人(うち一人は弁護士)の賛成が必要だが、それを得るためには、偽証と認めるだけの十分な根拠が必要となるであろう。

過去に、国会での証人喚問の結果、偽証罪で告発された例は相当数あるが、国会が不安定な状況であった昭和20年代を除けば、かなり慎重に行われており、その大部分は、その後、検察当局の捜査の結果、偽証の事実が明らかになった(国会での偽証の疑い以外の別の犯罪の容疑で捜査が行われた結果、国会での偽証も明らかになった)というケースだ。

最近では、AIJ投資顧問の年金資産消失事件で、浅川社長が証人喚問されて以来、国会の証人喚問は行われておらず、5年ぶりとなる。この浅川社長の事例は、当初、参考人招致されたが、曖昧な供述であったことを受けて証人喚問が行われたものであり、今回のように、民間人が「いきなり証人喚問」というのは異例だ。

果たして、偽証罪での告発に持ち込めるのか、自民党は、「危険な賭け」に出たと言わざるを得ない。

美濃加茂市長事件との共通性

確かに、籠池氏の話には、100万円を受け取ったとしながら、領収書も渡さず、寄付名簿に「安倍」という名前を記載することもなかったなど、不可解な点も少なくない。

また、小学校の設置認可申請の取り下げに追い込まれたことで、国から土地の原状回復と返還を求められることが必至となり、入学予定の児童の保護者への入学金等の返還に加え、校舎の建物工事代金の支払等で窮地に追い込まれている籠池氏は、「公費による支援」まで持ち出しているようであり、国に対抗して自らの立場を守るために、一発大逆転を狙ってウソの寄付金受領話を始めた可能性もある。

「自らの利益のために虚偽の供述を行う動機がある」という点でも、「現金の授受の有無が最大の争点になった」という点でも共通するのが、現在、控訴審での「逆転有罪判決」を上告審で覆すために上告趣意書の作成作業に追われている「美濃加茂市長事件」だ。

当ブログでも、捜査や裁判の経過について詳述してきたように、この事件では、贈賄供述者のNは、総額4億円近くもの融資詐欺を犯して逮捕され、そのうち2100万円の事実しか立件されていない段階で、市長(当時は市議)へ20万円の現金を渡したとの供述を始め、さらに、それ以前に10万円を渡した事実も供述した。この後、警察の捜査は、贈収賄に集中し、残りの融資詐欺は立件されることなく、Nに対する起訴は、30万円の贈賄と2100万円の融資詐欺にとどまった。

Nにとっては、融資詐欺を次々と立件されると、長期の実刑を覚悟しなければいけない状況であったのだが、市長への贈賄を供述したことで、警察の動きを贈収賄事件に集中させることができ、全体としても大幅に軽い事実の起訴にとどまって、まさに「思惑通り」の結果になっていたのである。

それと同様に、今回の籠池氏も、小学校の開校が絶望的となり、国から厳しい措置を受けることが必至の状況の下で、「総理大臣から夫人を通じて100万円の寄付を受けた」という爆弾発言をすることで、世の中の関心をその問題に集中させようという、同様の「思惑」が感じられる。

「現金授受の有無」に関する証言の信用性判断のポイント

同じように「現金授受の有無」が最大の争点になっている美濃加茂市長事件と比較しながら、籠池氏証人喚問に関してポイントとなる点を考えてみよう。

3月16日の参院予算委員会の現地調査の際、籠池氏は、

2015年9月5日に安倍昭恵氏が塚本幼稚園に講演に訪れた際、昭恵氏が「安倍晋三からです。」「どうぞお使いください。」と言って寄付金100万円を差し出した。籠池氏が「領収証はどういたしましょうか。」と尋ねると、昭恵氏は「いや、それはもう結構です。」と答えた

と述べている。証人喚問では、このような内容の証言をさらに詳しく行うことになる可能性が高い。

現金授受の有無に関しては、その「授受の機会」があったか否かは決定的な事実だ。美濃加茂市長事件では、2回の現場に同席者がいて、少なくとも、その目の前での授受がなかったことは、同席者が一貫して供述していた。Nは、「同席者が席を外した際に現金を渡した」と供述していたが、この同席者から、何とか「席を外した」との供述をとろうと、警察では恫喝的、強迫的な取調べが行われたが、同席者は、一貫して、「会食は短時間で、その間席を外した事実はない」と供述していた。

籠池証言についても、重要なのは、昭恵夫人に同行したとされる政府職員の供述である。もし、「塚本幼稚園に滞在した時間内に、常に職員の誰かが同席していて籠池氏側と昭恵夫人とが立会人なしで会った場面は全くなかった」ということが客観的に明らかになれば、政府職員に見られることなく現金の授受があった事実は否定される。ただ、講演の会場であった幼稚園の内部は、籠池氏の側が熟知している。政府職員が「常に同席していた。」と供述した場合でも、籠池氏の側が「政府職員抜きでいた時間があったこと」を現場の状況も含めて具体的に供述した場合、いろいろな場において昭恵夫人に同行している政府職員側の記憶が正しいと言い切ることができるかは微妙だ。

一般的には、授受されたとされる原資や使途も重要だ。美濃加茂市長事件では、授受したとされた現金の金額が20万円、10万円と少額だったため、「原資」や「使途先」から現金授受を裏付けることは困難だったが、籠池氏が昭恵夫人から受け取ったと述べるのは100万円と金額が大きい。昭恵夫人にとって、100万円という金額が、現金で出金した可能性を否定できる金額であろうか。

一方、籠池氏側でそのような金額を受け取ったとすれば、使途が問題になる。100万円もの寄付を、その後、小学校建築にどのように使ったのかは、尋問者の方で厳しく追及するであろう。しかし、籠池氏の側でも、それは当然予想しているはずであり、例えば、「総理大臣から頂いたお金なので、ゆめゆめ疎かにはできないと考え、小学校開校後に最も有効な使い道に充てようと考えて、手をつけず現金のまま自宅においておいた」などと証言されると、その可能性を否定することは難しい。

籠池供述の経緯や、その合理性の問題に関して、今になって、「昭恵夫人から100万円を受領した」と言い出したことが、これまでの「安倍首相側には何もしてもらっていない」という話と矛盾しているのではないかという点、100万円もの寄付を領収書も渡さずに受け取り、寄付者名簿に「安倍」という名前が記載されていないことがあり得るのかという点も追及の対象になるであろう。

しかし、前者については、「先週までは、小学校の設置認可を最優先に考えてきたので、野党やマスコミから追及されている状況において、安倍首相からの寄付などという話を持ち出せば、さらに追及を受け、認可が一層困難になると思ったので出せなかった」と証言するであろうし、領収書の点は、おそらく、「昭恵夫人が要らないと言われているのは、総理大臣の名前を表に出すことに支障があるからだろうと考えて、そのことは一切表に出さなかった」と説明するであろう。いずれも、そのような説明は「疑わしい」とは言えても、虚偽だと客観的に立証するのは難しい。

議会証言を偽証告発することの困難性

証言が「虚偽」だということを、刑事手続で認定される程度に立証するということは決して容易ではない。籠池氏が「昭恵夫人から100万円を受領した」との証言を維持した場合、その証言を「偽証」で告発するのであれば、予算委員会として、授受の反対当事者である昭恵夫人の供述を得ることが最低限必要であろう。自民党は、昭恵夫人の証人喚問ないし参考人招致を覚悟のうえで、籠池氏の証人喚問を提案したのであろうか。

もし、籠池氏が100万円の現金受領を維持し、偽証で告発して検察での捜査にゆだねた場合、昭恵夫人の側で、「授受があったとされる当日、そのような金額の現金を持参した可能性がない」ことの立証のため、安倍家の個人的な資金の動きを示さなければならなくなるが、果たしてそれは可能だろうか。

美濃加茂市長事件では、我々弁護人は、融資詐欺での告発まで行ってNを徹底追及した結果、Nの供述の信用性に「合理的な疑い」があるとされ、一審判決では証言の信用性が否定され、現金授受が否定された。しかし、その一審判決の「N証言の信用性を否定する判断」は、控訴審では、不当にも覆されているのである。

今回の籠池証言について、偽証告発が行われ、処罰まで行われるためには、逆に、「籠池証言が虚偽であること」が「合理的な疑い」を容れない程度にまで立証できなければならない。立証のレベルは、美濃加茂市長事件で弁護人が行ったN証言の虚偽性の立証を大きく超えるものとなる。

昨日、籠池氏が、昭恵夫人からの100万円の受領の話をしたと報じられてから、2、3時間後には、竹下国対委員長が「証人喚問」のことを言い出したというのは、拙速であった感は否めない。

私が助言する立場であれば、まず、野党側の参考人招致の話を受け入れ、参考人として十分に籠池氏の話をしっかり確認した上で、上記の点等について、籠池参考人供述の不合理性を追及するネタをしっかり用意した上で「証人喚問」に臨む、という戦略を勧めたであろう。

安倍首相にとっては、極めて重要な証人喚問になるのであるから、実際に、証人喚問で籠池氏への尋問を担当する予算委員会の自民党議員には、大変なプレッシャーがかかることになるであろう。

やはり、籠池氏証人喚問は、自民党にとって「危険な賭け」である。

 

 

 

 

 

 

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